第1話 神様の援助

文字数 2,236文字

その惑星では長い歳月の末、生物は順調に進化し、支配種となった人類は繁栄と栄華を極めていた。

しかし良い事はいつまでも続かないのが、世の常である。突如として、原因不明の地殻変動が人類を襲ったのだ。キツリツしたビルは次々と倒れ、きらびやかなネオンが人々を楽しませる事はなくなった。

度重なる火山活動のため、大量に吹き出した溶岩は大地を焼きはらい、人々が精魂込めて作り上げてきた文明を跡形もなく消し去っていく。

恐ろしい規模の津波が頻発し、多数の市民が犠牲になった。そればかりではない。海洋環境の激変により漁獲量は激減し、地殻変動によって壊滅的な打撃を受けた農作物の収穫量とも相まって、未曾有の食糧危機が訪れた。

「こんな事で我々は滅びはしないぞ!」

絶望的な空気の流れる中、優れた指導者が現れ、また人々も頑張った。

皆の懸命な努力の末に、惑星の復興は順調に進んでいく。数年後には、災害以前の状態とまではいかないものの、多くの人々が明日への希望を抱く事のできる生活を取り戻していった。

そんな人類に、再び驚異が迫りくる。

天文学者のグループにより、彗星が惑星の至近距離を通過するという知らせがもたらされたのだ。

彼らは、彗星の飛来が惑星に多大な被害を及ぼすであろうと警告し、人々は災難を免れるため、地下シェルターへ避難せざるを得ない状況となる。

彗星通過の影響は激烈を極めた。復興途上にあった都市はことごとく壊滅し、回復の兆しを見せていた農作物も大きな打撃を受ける。

彗星が去り、人々が地上に戻ったとき目の当たりにしたものは、前の災害でもたらされた惨状より更に絶望的な状況であった。

しかし彗星は、人類に一つの希望を残していく。

彗星から放出された特殊な粒子が、惑星に存在する幾つかの物質に、ある変化をもたらしたのだ。その物質から精製された金属は、従来のものより加工がしやすく、最終的な処理をすれば強度が二倍になるという素晴らしいものであった。

「神は我らを見放してはいないぞ! また、みなで頑張ろうではないか」

指導者のかけ声のもと、人々は新たな技術を武器に再度復興への道筋を辿る決意をする。新金属の恩恵もあり、もはや再生不可能と思われた惑星も、徐々にではあるが希望のもてる状態へと変わっていく。

しかし、しかしである。またしても人類は大きな痛手を負う事となった。最初の災害以前、地下に封印されていた大量破壊兵器の多くが、度重なる大変動の影響で突如暴発したのだ。

三度、地上は焦土と化す。

人々は真に絶望し、かつて栄華を極めた人類も滅亡の危機に瀕していた。

「神よ、あなたは私たちにどうせよというのだ。これは私たちが犯した何らかの罪の代償なのか。こたえてくれ、神よ」

多くの人々が天を仰いで叫ぶ。

その時である。

厚い雲に覆われていた天空より、一筋の光が差し込んだ。

『民よ、わたしを呼んだか』

空全体に響きわたる荘厳な声が、世界中に降り注ぐ。

平和な時であればワイドショー総出の事態であるが、事ここに至っては全人類最後の希望といって良い状況であった。

「神さま、私たちに何故このような試練を与えるのですか。私たちをどうして救っては下さらないのしょうか」

人々は、恨みと戸惑いと希望を抱きながら神に尋ねた。

『そなたたちが大きな苦しみに遭遇している事は知っていたが、その度に自らの力で乗り越えて来たではないか』

「いえ、もう限界です。私たちは相次ぐ災難に疲れ果てました。こうなっては、あなた様におすがりする他はありません」

『なに、わたしの助けが必要なのか。それならば早くそう申せばよいのに。わかった、そなた達の願いを聞き届けよう、慈悲であるが…』

「あぁ、有り難い。どうか、どうかよろしくお願い申し上げます。今あなた様に見捨てられては、人類は本当に滅亡してしまいます。復興がなったあかつきには、前にも増してあなた様を信仰いたします。どうか我々をお救い下さい」

空が一瞬まばゆい閃光を放つ。神が人々の願いを聞き入れたかのように。

以後の復興作業は、嘘のように順調だった。大量破壊兵器のもたらした毒素は一瞬の内にかき消え、厚く垂れ込めていた灰色の雲も、数日後には全て消失した。その後、人類を苦しめるような災害は一切おこらず、みな希望をもって復興作業に当たれることを喜んだ。


十数年後、彗星がもたらした新金属の効果もあり、人々は最初の災害以前の生活を取り戻しつつあった。

しかし、そのころから奇妙な事件が起こりはじめる。

収穫したばかりの作物が、一夜の内に消滅したり、掘り出したばかりの鉱石が、誰も気づかぬ間に持ち去られてしまうのだ。

最初の内は、復興がなされ再び貧富の差がつき始めたので、盗みをはたらく不心得ものが増え始めたのであろう、と大きな問題にはならなかった。

しかし同じような事件があらゆるところで起き、全く解決できない状況が続くと、そうも言っていられなくなる。それに加え、盗まれた品は一瞬の内に掻き消えてしまったという複数の目撃証言が相次ぎ、人々を不安にした。

「……もしかしたら」

仕事から帰途につくある男の脳裏に、一つの仮説が浮かんだ。

「あの時、神さまは”慈悲であるが…”と言った。でも、あれは”慈悲”ではなく”自費”だったのではないか」

しかし男はすぐに思い直す。

「いや、神さまが人々に費用を負担させるなどという事があるはずはない。バカな事を考えるのはよそう」

男は恥いり、家路を急ぐ。

だが男の思いをよそに、その後も神の取り立ては容赦なく続いた。
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