第1話

文字数 1,884文字

【プロット】
《起》
 中学2年生の雛(ひな)は、隣町の祖母の家に引っ越す。この町には入退院を繰り返す弟の病院があった。
 転校先の学校では、優里と桃香という親友もでき、少しづつ新しい生活に慣れていった。
 しばらくして雛は、この町の人達の様子がなんだかおかしいことに気が付く。

《承》
 人によって異なる言葉であるが、言うべき場面で言うであろう言葉を言えない生徒がいた。
また、ある言葉だけ明らかに普段と違う声色になる八百屋のおじさんもいた。
 共通している事といえば、これらの言葉を使おうとする時、彼らは毎回そうであること、そして、言葉に関連する何かが起きているという事だった。
 やがて雛に、智樹(ともき)というクールでイケメンの彼氏ができる。しかし、彼に『好き』と言われた事がなく不安は募るばかり。
 時を同じくして、優里から「桃香が私たちのヘアスタイルや持ち物を『可愛い』と言ってくれないからムカつく」と愚痴られたり、サッカー部に所属する智樹から、『へい!パス!』という言葉だけ子供のような声になる部員がいて、他の部員がプレーに集中できず支障が出ている、といったような言葉騒動が雛の周りでも起こるようになった。

《転》
 言葉騒動が続発する中、桃香から、KOBATO屋という小さな商店について教えてもらう。その店の店主は【KOBATO屋の小鳩さん】として、知る人ぞ知る店主らしい。
 KOBATO屋は品物を売る他に、秘密裏に、KOTOBA屋と店名を変え、言葉の売買をしているというのだ。
 料金形態や契約内容などに詳しい桃香は、智樹が『好き』という言葉を既に売ってしまっているのでは?と推測した。ちなみに『好き』は高額取引らしい。お小遣いを貯め、智樹に『好き』を買い取ることを決意をする雛。
 ある日、雛が家に帰ると、古い友人であるというKOBATO屋の小鳩さんを祖母から紹介された。優しく温厚な小鳩さんは、雛の想像とは違っていた。
 「自分は先が長くないから、雛のためにも残しておきたい、小鳩さん手伝ってくれるかい?」と、祖母の話を偶然聞いてしまう。
 動揺した雛は、一連の言葉騒動を解決すべくKOBATO屋に向かい、小鳩さんに真っ向勝負を挑む。   
 どれだけ時間が経過しただろう、雛は軽やかな足取りで店をあとにした。

 それから数日後、今度は言葉の売買を悪用した事件が発生した。警察官が犯人の顔写真を小鳩さんに見せに来ている。
 雛は、警察がKOTOBA屋を黙認していることに驚いた。犯人は、声認証で鍵の開閉ができる会社を狙い、社員の声が入った言葉を買うことで、その会社の扉の鍵を開け、盗みを繰り返していたという。

《結》
 桃香は過去に『可愛い』を売っていた。
売買の7日以内でないとキャンセル不可のため、代わりに条件に合う『可愛い』を購入。それから、少し大人びた声でうんざりするくらい『可愛い』と褒められまくる日々が続いている。
 雛の誕生日、祖母から誕生日プレゼントを貰う。祖母が大切にしている意義深い言葉や祖母特製肉じゃがレシピの声を録音したというカセットテープだった。あの時の“残しておきたい”はこれだった。
 また、智樹の好き売却疑惑はすんなり解決。「雛、好きだよ。いつもは照れくさくて、とても言えたもんじゃないけど、今日は雛の誕生日だから、ちゃんと伝える。大好きだよ。」と言われたのだ。
 誕生日が過ぎると智樹はまた『好き』と言わなくなったが、もう不安にはならない。

 KOBATO屋は、未だ人の出入りが多く、言葉騒動も続いている。しかし雛は、小鳩さんが店を営んできた経緯、KOTOBA屋を必要としている人達がいる事をもう理解していた。真っ向勝負をして小鳩さんにノックアウトされたのだ。
 最近、忙しい小鳩さんを手伝っている子がいるらしいという噂があったが、言葉を悪用した事件を解決に導いた人物こそ、知る人ぞ知る【KOBATO屋の雛ちゃん】だった。 

 「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか。」
 「お姉ちゃん、その決め台詞ってまさか…!!」
 智樹の『好き』を買うために貯めていたお小遣いで、弟が大好きな人気アニメキャラの決め台詞を買った。
とても喜んだ弟は、「僕、病気に勝てるように頑張るよ!」と拳を力強く上げた。
 これからもKOBATO屋がある限り、言葉騒動は無くならないだろう。
 「いらっしゃいませ。本日はどのようなご用件でしょうか。」決め台詞でキメた雛は、今日も小鳩さんの傍らで言葉に耳を傾ける。まるで、鳥のさえずりを聞くように。   
                  了
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