異世界人技能実習生制度

文字数 1,048文字

「つまり、貴方の世界で行なわれている『効率的な経営』をやったらどうか? と雇い主にアドバイスしたら聞き入れてもらえなかった、と」
 弁護士は容疑者にそう訊いた。
「はい……何で、この世界の人達は……こんなにもわからず屋なんでしょうか?」
 容疑者は「異世界人技能実習生制度」によって、この世界に働きに来ている「異世界人」だった。
 何故か、これらの「異世界人」の中でも、この容疑者と同年代でオタク気質の者の中には、「自分達の世界の知識を使えば、この世界で無双出来る筈だ」と云う妄想を抱いている者が多く、各地でトラブルを起こしていた。
「それで、カッとなって雇い主を殺してしまった、と」
「い……いえ、そんな筈は有りません。僕は理性的で合理的な現実主義者です」
「でも……貴方が先に手を出したと云う目撃証言ばかりですが……」
「そ……そうなんですか……。ごめんなさい、その、気が動転して細かい事は覚えてないんです」
「ええ、目撃者の証言は『貴方が奇声を上げながら雇い主に殴りかかった』と云うモノばかりですよ」
「う……うそだ……」
「大体、貴方が雇い主にやったアドバイスの内容も変ですよね? 精神鑑定による無罪または減刑を狙いますか?」
「へっ?」
「技能実習生からパスポートと通信手段を取り上げろ、って人権侵害も甚しい」
「で……でも……僕の世界では、それが当り前でした」
「技能実習生に渡す給与の額を減らせ、って、そんな事になったら不利益を被るのは貴方でしょう?」
「それも、僕の世界では当り前で……」
「貴方は、雇い主に悪徳業者になれ、って言ったも同じですよ」
「で……ですが……それは、この世界の常識が変なんです。僕の世界では、当り前なんです……僕は、気○いなんかじゃ……」
「じゃあ、弁護方針はどうします? 情状酌量は狙えませんよ。いくら貴方の世界よりも量刑が軽いと言っても……十年は刑務所ですね」
「そ……そんな……僕は……何も間違っていない……おかしいのは……この世界だ……」
 異なる平行世界に有る2つの日本の政府は、ここ数十年、ほぼ真逆と言ってよい政策を取り続けていた。
 そして、「東京でも最低時給が千円そこそこ」の「日本」から、「全国一律で最低時給が二千五百円」の「日本」に技能実習生としてやって来た者の中には、トラブルを起す者が一定数()り……自分の世界の「日本」への愛国心が強い者と、あるジャンルのライトノベルの愛読者ほど、トラブルを起す確率が有意に高い、と云う調査結果が出ていたが、細かな因果関係は不明なままである。
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