第1話

文字数 1,177文字

 そのトンネルは、ミセロイ街に繋がっていた。
 ミセロイ街は噂では聞いたことがあったものの、場所まではどこにあるか知らなかった。
 肉体的修行3年、精神的修行6年の計9年厳しい修行を耐え抜き、試験に合格したものだけがミセロイ街の場所を教えてもらえ、街へ入ることが許されているからだ。
 そんな限られた人しか住んでいないので、ミセロイ街では犯罪はおろか、喧嘩も起きない。肉体的修行の倍、精神的修行を積んでいるのだからみんな人間ができている。
 ここにミセロイ街に住む人間は、働く必要がない。人間によく似たロボットが自分の代わりに働いてくれるから、好きなことをしていても給料が勝手に振り込まれるからだ。

 噂でしか聞いたことのなかったミセロイ街。人間誰しもが行けることなら行ってみたいと思うものだが、厳しい修行に耐えられる自信も、難関といわれる試験を合格する自信もない。
 
 それがただ、このトンネルを抜けるだけでいいのなら、使わないわけにはいかない。
 
 トンネルは特に変わった様子もなく、普通のトンネルって印象だった。

 トンネルを抜けると、黒いスーツの男が笑顔で待ち構えていた。
「ようこそ、ミセロイ街に」
「どうも、こんにちは」
「最近、ロボットが不足していたので助かります。では早速ですが、手続きと簡単な研修を受けていただくことになります」
「え?」
 聞き間違いでなければ、この人俺のことロボットにしようとしてる?

「俺にも、ロボットもらえるんですよね? その手続きと研修ですよね?」
「はい? あなたはロボットになるのですよ」
「ちょっと待って下さい嫌です。何でですか」
「何でですかと言われましても、あなたはトンネルを抜けてミセロイ街に来られましたよね? トンネルを抜けてこの街に来る人間は全てロボットになるというきまりでございますから。この街で人間として住めるのは、修行を受け、試験に合格した人間のみです」
「間違えました。分かりました、修行してきます。修行して、試験受けて合格してからここに来ます」
「それはダメです。あなたのように正規のルートではなく、楽をしてここへ踏み入れようとするような人間を我々は合格にしません。そもそも修行に耐えられるとも思えませんね。修行も楽をすることばかり考えそうですし。ミセロイ街の場所を知られてしまった以上、帰すわけにはいきません。ですから、ここでロボットとして扱うしかないのです」
「言いません。場所のことも今日の出来事も言わないので、帰らせて下さい」  
「あなたのような人間の言葉は信用できません。無理矢理連れて行くしかなさそうですね」
 黒いスーツの男に抱えられ、俺は連れてかれた。力が強すぎて、逃げるに逃げられなかった。
 
「助けてくれ、助けてくれ〜〜〜〜」 
 トンネルをくぐっただけでロボットにされるなんて、このトンネルありえないだろ……
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み