第1話

文字数 927文字

「大人を舐めんじゃねぇよ!!」
 ビタンッ!中学教師の鬼ヶ浜が私の右頬を打ちました。
「鬼ヶ浜先生、私は嘘をついていません!本当に妖精を見たのです。」
 ビタンッ!先生は私の左頬を打ちました。
「まだ言うのか!まだ言うのか!」
 ビタンッ!ビタンッ!先生は私の両頬を打ちます。
「い、痛い痛い!やめてください、やめてください!」
「言え!どこで妖精を見たのか言うのだ!」
 私は、暴力を振るう鬼ヶ浜浩司という人間に恐怖を感じていました。彼のコメカミはピクピクと上下し、眉は吊り上がり、唇はプルプルと震えていたのです。

「く、口の中です。先生の口の中に妖精がいたのです。」
 鬼ヶ浜先生は、大きくのけ反りました。
「お、お前、本当にヤベぇ奴じゃん。」
「先生、私をもっとぶって下さい。先生が、あんまり規則正しくビタンビタンと私の両頬を打つので、何だか小気味よい心持ちがするのです。」
 鬼ヶ浜はギョッとしたようでした。
「ますます、ヤバい奴だ。よしよし、覚悟しなさい!」
 鬼ヶ浜が大きく手を振り上げたその時でした。

「そこまでだ!暴力教師!」
 茶色のコートにベレー帽をかぶった、咥えたばこの変な男が乱入してきました。
「何だ君は?」
「私か?私はこの子の母親から依頼を受けた探偵だ!」
 鬼ヶ浜の顔がみるみる青くなります。そして、断末魔の鬼のような顔をして、私を睨みつけました。
「貴様!私をハメたな!」
 
そうです、これは私が暴力教師を告発するためのシナリオだったのです。探偵がスマートホンを取り出します。
「君の行動は全て動画に撮らせてもらったよ。」
「アガガガガガ!!くっ、悔しい~~~!!!」
 鬼ヶ浜先生は悔しくて悔しくて、歯を食いしばっていましたが、急にポカンと口を開けました。そして、その口の中から2体の妖精が出てきたのです。妖精は3センチ程の大きさでしょうか?羽の生えた、可愛らしい男の子と女の子の妖精なのです。妖精は声を揃えて言いました。

「この人を憎んではいけません。この人はかわいそうな人なのです。さぁ、みんなで、お互いの頬を打ちましょう。」
 鬼ヶ浜は泣いていました。探偵も泣きながら自分の頬をビタンビタンと打ちました。私は泣きながら、この場にヤバい人しかいないことを嘆くのでした。
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