終結!本能寺の変
文字数 4,466文字
声を荒げるのは、この学園でたった七人しかいないとされる「六年生」のひとり、人魔一天、織田信長!わずか六年の在学期間で卒業一歩手前とまで言われている、神童中の神童だ!その称号に違わず、彼女は炎の中でも一切動じない。すごいぞ!
両者が剣を抜き、向き合った。熱気によって、火の粉が巻き上げられ、二人の間にちらちらと舞った。先に動いたのは織田信長だ。本能寺の変……"歴史再現”によって、彼女は炎に対する防御力が下っている。旧校舎は木造。火の周りは早い。時をかければ不利になるのは彼女の方だからだ。
構えは上段!奇しくもそれは、俗に「火の構え」と呼ばれているものだった。明智が反応する間もなく、剣が振り下ろされた。空気すらも、その剣速についていくことは出来ない。火の粉の幾つかが、彼女の剣で切られ、火花となって宙に消えた。
「ぐっ……!ぬうーっ!?」
明智がすれ違うように、後ろに駆け抜けていく。斬られた。傷は浅くはない。しかし、命にまでは届いていなかった。武士としての防衛本能が、意識せぬうちに、明智の刃を避けていたのだ。信長も振り向き、再び対峙する。
信長は剣を握り直す。奴を切ろうとした瞬間、体が動かなくなった。今も、斬ろうとすると、動きが鈍る。毒か?とも思ったが、体がしびれているわけでもない。予防接種も受けてあるし、違うかなと思った。となると……
言われた通りにすると、なんか黒いもやもやした邪悪っぽいのが、沢山織田信長の体に纏わり付いていた。躰を縛っていたのはこれか!そういえば、明智ももっと可愛い顔をしていた気がするし、角も生えている。気づく要素はいくらでもあったのになあ。
「その通り!さすがは神童と恐れられた六年生よ。比叡山焼き討ち、魑魅魍魎を抑えていた神社仏閣を織田信長が燃やし尽くしたことで、およそ二年の間魔界と人界が繋がったあの事件の再現!魑魅魍魎達が最も力を持っていた頃の再現だ!」
「五年私に仕えて罵倒しかされなかった明智の抱いた、たった数分関わっただけで胸を拝見した貴様らへの嫉妬のパワーだ!亡者と亡者では、より強い怨念をもったほうが勝つ。魔界への門を開けたのが仇になったな、偽明智!」
「ひえ~!待ってくれ~!比叡山だけに~!ちょっとした遊び心だったんです~!本気で六年生に成り代わろうなんて思って無くて……ああ~!そうだ!信長様に仕えます!へへ!家臣が一人死んで、ちょうど人手が必要でしょう!?あっしほどの力を持った武士が加われば、埋め合わせも出来ると思うんでさぁ……。わ、悪い考えじゃあないでしょう!?ねっ!ねっ!」
灰となった校舎を置いて、二人は歩いて行く。こうして、また一人の武士がこの世を去った。しかし、これも世の常、武士として生きるためには、数多の死を超えねばならないのだ。織田信長、彼女の歩く道は修羅の道。しかしてその先に、魔王をも超える武士道があると信じ、彼女は進む。