終結!本能寺の変

文字数 4,466文字

ここは国立武士道女学院初等部!名門集まる東京都の中でも頂点に君臨する、超一流の武士道学園のひとつである!
鍛錬の厳しさは勿論、恐ろしいのはその戦数!毎年2000以上の合戦が起き、卒業までに8割の学生が死亡。さらに残りの内、9割が命を落とす!一流企業も真っ青な超倍率がこの学園の特徴だ!
そして今日もまた、女学生たちの血が校舎を、グラウンドを濡らす。
放課後を過ぎに過ぎ、皆が寝静まった夜のこと。旧校舎一体は人知れず炎に包まれていた!
「おうおう!これはやってくれたのう、明智!わしに反旗翻すたぁ、お前も偉くなったやないけ!この調子で総理大臣にでも立候補するか、おう!」
声を荒げるのは、この学園でたった七人しかいないとされる「六年生」のひとり、人魔一天、織田信長!わずか六年の在学期間で卒業一歩手前とまで言われている、神童中の神童だ!その称号に違わず、彼女は炎の中でも一切動じない。すごいぞ!
「ククク、強がっても無駄ですよ信長様ぁ~!この炎の意味、貴女は理解しているはずだ。既に貴女がここから生き残るのは、針の穴にガチョウの卵を通してエプロンを縫うくらい、不可能なことだとねえ~!」
そんな織田信長と対峙する異様な影……邪悪な笑い声を上げ、げひた笑いを浮かべるのは、五年生、明智光秀!六年生には及ばないものの、有力な武将を聞けば必ず名の挙がる恐るべき女性だ!
「"歴史再現”か?ふん!六年生がその程度の小細工で倒れるか。そちらこそわかっておるだろうに。乱心したな、明智」
「さりとて、貴様のいままでの働きは私も評価しておる。今からでも心を整え、わしに再び忠誠を誓うなら、一年生(足軽)からやり直させてやらんこともないぞ。どうする?」
「理由を聞き、貴様の考えが妥当だとわかれば責をとらせんでもいい。新しい意見は取り入れるのがわしの流儀だからな。何故、わしを撃たんとする、明智!」
信長の言葉に対し、明智は肩を揺らして笑った。不敵!まるで馬鹿にするような笑いだ!
「ぷぅ~ききききぃ~!忠誠だと!笑わせる!俺は最初の最初から貴様を裏切るつもりだったのよ。油断させ、機会を待っていたのだ!体力測定で豊臣の野郎を煽り、中国まで走らせたのもこの日のため。」
「貴様を殺し、最強の六年生の座を受け継ぐ、今日のためにな~!乱心ではない。この私の行動は一から十まで計算ずく!わかったら剣を取るがいい」
「”歴史再現”程度で殺せる女とも思っておらぬ。だからこそこうして対峙しているのだ。最後のひと押しを、私の手で行うためにな。」
「ふ。そうか。入学式の日、一目惚れだと言った貴様の眼は、たしかに本物だと思っていたのだが。私の目も鈍っていたようだな。」

「ええで!そんならお望み通り剣抜いたる。安心せえ、閻魔様も最初はただのクソ亡者だったそうじゃ。その根性なら、地獄に行っても、成り上がってど偉くなれる。」


「六年生には、そこでなりや、明智。」
両者が剣を抜き、向き合った。熱気によって、火の粉が巻き上げられ、二人の間にちらちらと舞った。先に動いたのは織田信長だ。本能寺の変……"歴史再現”によって、彼女は炎に対する防御力が下っている。旧校舎は木造。火の周りは早い。時をかければ不利になるのは彼女の方だからだ。
構えは上段!奇しくもそれは、俗に「火の構え」と呼ばれているものだった。明智が反応する間もなく、剣が振り下ろされた。空気すらも、その剣速についていくことは出来ない。火の粉の幾つかが、彼女の剣で切られ、火花となって宙に消えた。
「ぬう……!?」
 受け止めたとして、刀ごと頭蓋を叩き割って有り余る威力の一撃。それが、明智に振り下ろされる。寸前、ピタリと止まった。何が起こった?事態を把握するよりも速く、熱さが信長の胴に走った。
「ぐっ……!ぬうーっ!?」
 明智がすれ違うように、後ろに駆け抜けていく。斬られた。傷は浅くはない。しかし、命にまでは届いていなかった。武士としての防衛本能が、意識せぬうちに、明智の刃を避けていたのだ。信長も振り向き、再び対峙する。
「コケケケケ……!しぶといやつよ。だが、次はない……」
 明智が勝ち誇ったような笑みを浮かべる。
信長は剣を握り直す。奴を切ろうとした瞬間、体が動かなくなった。今も、斬ろうとすると、動きが鈍る。毒か?とも思ったが、体がしびれているわけでもない。予防接種も受けてあるし、違うかなと思った。となると……
「これは妖術か……・しかし奴は最近キリスト教に入れ込んでいたはず、とすると……。貴様、明智ではないな……!」
「ようやく気付いたか!しかしもう遅い。貴様は既に私の術中よ。目を凝らしてみよ!貴様の体に、魍魎が纏わり付いているのが見えるだろう!」
 言われた通りにすると、なんか黒いもやもやした邪悪っぽいのが、沢山織田信長の体に纏わり付いていた。躰を縛っていたのはこれか!そういえば、明智ももっと可愛い顔をしていた気がするし、角も生えている。気づく要素はいくらでもあったのになあ。
「確かに驚いた。しかし、タネが解ってしまえばこんなもの……!おいおどんりゃあ!わいを誰だと思っとんねん!第六天束ねとる魔王やぞ、魔王!きさんら弱小が触っていい相手ちゃうねん!さっさと逝ねやこら!」
信長が体にまとわりつくもやもやに向って叫ぶ!しかしなんの効果もない。むしろ拘束が強まっていく!
「い、一体どうなって……!?はっ!」
その時、織田信長は気づいた。旧校舎が燃やされている真の意味を!木造……この旧校舎が出来たのは慶応四年、廃仏毀釈運動が起きた直後!となれば、材木には当然寺の廃材が利用されている!
「"歴史再現”……!この状況は本能寺の変ではない!比叡山焼き討ちの再現か!」
「その通り!さすがは神童と恐れられた六年生よ。比叡山焼き討ち、魑魅魍魎を抑えていた神社仏閣を織田信長が燃やし尽くしたことで、およそ二年の間魔界と人界が繋がったあの事件の再現!魑魅魍魎達が最も力を持っていた頃の再現だ!」
「今、怨霊達の力はあの時と同等まで上がっている。いくら『六年生』とは言え、簡単に振り解ける存在ではない」
明智が、懐から油便を取り出し、炎を汲んだ。
「更に!本能寺の変ではなく、とお前はいったが、正確には両方の”歴史再現”をしてある。炎属性に対する防御力はいまも下り続けている。これを貴様に放れば……ククク……」
「いくら六年生最強とは言え、無事ではすまぁ~ん!ゲハハハハ!織田信長のBBQの出来上がりだぁ~!ゲハハハハ~!よかったな!貴様の好きな西洋文化であの世に行けるぜぇ!信長ァ~!」
「それと……貴様の部下である明智だが、奴は既に死んでいるぜ。同じ方法で……俺が殺した。再会したら、二人仲良く成り上がってみせろよ、地獄でな。」
「明智……死んでおったのか、あやつ……」
この時かけた言葉によって、信長には少なからず動揺が走ると、明智は踏んでいた。
しかし、実際に織田信長の顔に浮かんだのは笑みだった。それも、勝利を確信した余裕の笑みだ!
「な、なぜだ。なぜ笑える。この状況で!虚勢を張ったところでなんの意味もないぞ、織田信長!」
「ほう!これが虚勢に見えるか。ならば腐っとったのは、お前のめんたまのほうじゃのう。」
そう言うと織田信長は剣を明智からそらした。そしてその剣を自らにむけ、ビリリーッ!刃を添わせ、服を一気に破り捨てたではないか!
「うおー!女子小学生のおっぱいだ!じゃない!貴様、何を突然!血迷ったか!」
「血迷ってなどおらぬ。ふっ!なに、わしにこの金縛りが解けぬと言うなら、解けるものに解いてもらおうと思ったまでよ。」
「い、一体何を……!金縛りを解けるものなどおらぬぞ!貴様にも!よしんば秀吉が来た所で、これだけ強くなった怨霊に太刀打ちできるわけがないのだ!」
「その通り。今ここでは比叡山焼き討ちが再現され、魔界との扉がつながっておる。亡者と生者では生者が強い。なら亡者と亡者では……?」
「亡者と亡者だと~!?……はっ!まさか!」
「そのまさかだ!おい、明智!貴様の惚れた女の胸が、見られておるぞ!亡者どもに!放っておいていいのか、きさん!」
ずごごごご!信長が叫ぶやいなや、地の底から、歯を擦り合わせたような地鳴りが響く!直後!亡者たちがうめき声を上げながら、信長の体から離れていくではないか!
 異変は偽明智にも起きていた!血で汚れた武者鎧の巨大な手甲が偽明智を捕え、ぎりぎりと締め上げる!妖術も効かない!
「ぎ、ぎえええ~!な、なんだこれはぁ~!」
「五年私に仕えて罵倒しかされなかった明智の抱いた、たった数分関わっただけで胸を拝見した貴様らへの嫉妬のパワーだ!亡者と亡者では、より強い怨念をもったほうが勝つ。魔界への門を開けたのが仇になったな、偽明智!」
信長が偽明智に迫る。
「ひえ~!待ってくれ~!比叡山だけに~!ちょっとした遊び心だったんです~!本気で六年生に成り代わろうなんて思って無くて……ああ~!そうだ!信長様に仕えます!へへ!家臣が一人死んで、ちょうど人手が必要でしょう!?あっしほどの力を持った武士が加われば、埋め合わせも出来ると思うんでさぁ……。わ、悪い考えじゃあないでしょう!?ねっ!ねっ!」
「えいっ。」
「ほ、ほげげぇ~!」
「死人に口なし。黙って死んでおれ。それに明智の代わりなど要らぬ。どうせ、本能寺の変が起こったら、奴は私を裏切るのだ。その前に死んでくれて、せいせいするわ。」
「だから安心して死んでおれ、明智。貴様もな。成仏しろ。それか、そうだな。地獄で閻魔の首でも取って来たなら……私の命無く勝手に死んだことも……不問にしてやらんでもない。」
信長の言葉を聞き、巨大な手甲……明智光秀……は、躊躇った後、偽明智の体を離した。姿が薄れ、消えていく。同時に、校舎の火も消えていた。信長が去ると、旧校舎は音を立てて崩れ去った。
「信長様ー!火急と聞いて、飛んでまいりました!お怪我は……!ああ!服が!ひどい破け方を!これを召してください!懐で温めておりました!」
「おう。秀吉か。まあ大したことはない。すこし、至らぬ部下の後始末をしておっただけじゃ。」
「というか、お前なんでわしの服持っておるんじゃ。草鞋ならまだわかるが、服って。」
「このような時に備えて、靴下からネックキャップ、ボディソープマグカップ、歯ブラシにいたるまでなんでも温めております。お使いになりますか。」
「よいよい。その心意気だけで、わしの心は温まる。温まるかな……?まあいいや。」
「火には当たっていたはずなんじゃがな。冷えていた身にはありがたいことよ。」
 灰となった校舎を置いて、二人は歩いて行く。こうして、また一人の武士がこの世を去った。しかし、これも世の常、武士として生きるためには、数多の死を超えねばならないのだ。織田信長、彼女の歩く道は修羅の道。しかしてその先に、魔王をも超える武士道があると信じ、彼女は進む。
次回、『逆密室殺人!織田信長VS名殺人鬼シャーロック・ホームズ』に続く!
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

忍者くん

織田信長。数少ない六年生のひとり。

豊臣秀吉。五年生。織田の右腕。

明智光秀。五年生。織田くんを倒し、六年生に成り上がろうと企む。

モブ

シャーロック・ホームズ。名探偵。自由に脳内麻薬を生成することが出来る。

ワトスン。ホームズを名探偵の道に引きずり込んだ張本人。人間と言い張る。

ビューワー設定

背景色
  • 生成り
  • 水色