最終話

文字数 4,529文字

 二年後……。

 「フン♪フフフ~ン♪」

 芹香は鏡の前で鼻歌を歌いながらメイクをしていた。綺麗にメイクして、服装も可愛過ぎず、大人過ぎずの服装を選ぶ。髪を綺麗にセットして、鞄を持つと、部屋を出る。電車に乗り、街の主要の駅に行く。

 そう、今日は二年ぶりに透と再会する日だ。

 そわそわとしながら透の到着を待つ。新幹線でここまで戻ってくると聞いている芹香は新幹線の降りる近くの改札辺りで待っていた。

 透が行って、芹香は大学生になり芸術大学に通い始めた。性格のせいもあってか、友だちもすぐにできた。芽衣と真奈美とは月に一回のペースでよく行っていたカフェでお茶をしている。二人とも元気にしていて芹香同様、大学生活を満喫しているらしい。
 大学生になり、それぞれバイトも始めた。芽衣は近所の本屋さんでバイトをしていて、真奈美は塾の非常勤としてバイトをしているという。そして、芹香は大学の紹介で写真展といった展示会のお手伝いやチケット配りのバイトをしている。

 新幹線がやってきて、芹香の胸が高鳴る。

(もうすぐ会えるんだ……。)

 心臓がバクバクと鼓動を打っている。

(久々にかわいい透が見れる……。)

 ほうっと顔を高揚させながら、透が来るのを待つ。

 その時だった……。


「芹香!」
 

 すぐ後ろから声がして、肩を軽く叩かれる。

 声の主はすぐに分かった。

 振り向いてその主を見る。


「とお…………る?」

 芹香は目の前の人物を見て固まる。

 なぜなら、芹香の目の前にいる人物は

からだ……。


「え……え……?」

 透が自分より身長が高くなっていることに芹香は驚きを隠せない。何が起こっているのか分からなくてフリーズしている。

「とりあえず、カフェに行くぞ。」

 透がそう言って、芹香をズルズルと引きずっていく。


 カフェに入り、透がコーヒーとオレンジジュースを注文する。
 まだ、半分フリーズ状態の芹香が透に聞く。

「えっと……、身長が高くなる手術したの?」
「してないよ。」
「身長が高くなる薬を飲んだとか?」
「そんなもんがあったら嬉しいかもしれないな。」
「魔法使いにお願いしたとか?」
「ファンタジーかよ。」
「身長高くなりますように祈ったとか?」
「思っただけで、祈ってないが?」
「………。」
「………。」

「つまり、こういうことだよ。」

 透がそう言って、父から訓練学校の試験を受けてみないかという話の時に聞かされた祖父の話を始めた。


 回想。

「実は亡くなったお爺さんも透と同じように身長が伸びないことで悩んでいたんだ。」
「じーさんが?」
「あぁ、お爺さんもなかなか身長が伸びないことにすごくコンプレックスを感じていたらしい。だから、お婆さんに身長が低いことで可愛いと言われてストレスだったそうだ。」
「じーさんとばーさんが昔からの知り合いとは聞いていたけど、そんな幼い時からの付き合いがあったんだな。」
「まぁね。お爺さんは昔からお婆さんのことが好きだったから、お婆さんより身長が高くなったら告白しようと思っていたらしいが、なかなかお婆さんを超すことができなくて、苦しい時期が続いたらしい。そんな時に考察能力がある事から警察官の特別訓練を受けないかと言われて家を出たんだ。家から離れ、お婆さんからも距離を取って、好きな人に可愛いと言われることが無くなったからか、そのストレスから解放されたんだろう。止まっていた成長スパートが一気に起きて身長が伸びたんだ。そして、久々にあったお婆さんに告白して結ばれたそうだよ。」
「じゃあ、じーさんも……」
「あぁ、今の透と同じ悩みを抱えていたんだ。」
「俺も、もしかしたら……。」
「まぁ、絶対とは言い切れないけどね。可能性はあると思うよ?」


「……それで、本当に身長が伸びちゃったってこと?!」
「あぁ。」

 透の話が終わって、芹香は驚きの様子を隠しきれなかった。それと同時に自分の発言が透を苦しませていたことに苦しさを感じる。

(私が透を辛い気持ちにさせて、透の成長をを妨害していたんだ……。)

「ごめんね……。透に……というか、男性に可愛いって言葉ってあまり良くないよね……。ちゃんと考えたら分かる事なのに、本当にごめんなさい……。」

 涙が零れそうになるのを必死でこらえながら懸命に言葉を紡いで謝る。

「もう、いいから。泣くなよ……。泣かれると俺が泣かしているみたいで困る。」
「うん……。」
 
 それから、芹香と透はカフェを出ると透の家に向かった。
 透の家に行くと、芹香の両親もいた。
 そして、みんなで透の帰りを祝う。

 時間が経ち、お祝いも終盤に差し掛かった時だった。透が芹香に耳打ちする。

「芹香、ちょっと俺の部屋に来れるか?」
「うん?いいけど?」

 芹香は透と一緒に部屋に行く。
 部屋は綺麗に片付いていた。時々母親が掃除をしていたのだろう。机に埃も積もっていなかった。
 芹香を部屋の座布団の上に座らせて、透はベッドに腰掛ける。

「どうしたの?」

 芹香の問いに透はすぐに答えない。

 沈黙が流れる。

 透は視線を宙に廻しながら何かを考えている。

「あの……さ……。」

 透が戸惑いながら言葉を発するが、続かない。

 再び沈黙が流れる。

「あのさ、透……」

 その沈黙を芹香が言葉を発して破る。

「透……、なんかすごくカッコ良くなったよね。前は可愛いの方が強かったけど、すごくカッコ良くなって……、その、男らしくもなって……、だから……、えっと……」

 芹香はそう言いながら、顔を真っ赤にしている。

「芹香、隣においで。」

 透はさっきまでの変な緊張が取れたのか、優しい声で芹香に言う。芹香は透に促されて透の隣に腰掛ける。

 隣に芹香が腰かけると、フワッと柔らかな花の香りがして透の鼻をくすぐる。

「芹香、何か付けてる?」

「え?あ……うん。ブーケローズの香水を付けているけど……?」

「へぇ……。いい香りじゃん。」

「ありがと……。」

 透の言葉にお礼を言うが、なんだか嬉し恥ずかしの感じがして更に顔を赤くする。

 透が芹香の頭を優しく叩く。

 そして、微笑みながら言葉を紡いだ。



「俺は、芹香のことがずっと好きだったよ。」



 告白。

 芹香が透の言葉に驚きを隠せない表情をする。

「私のこと……が……?」

 透の言葉が信じられなくて聞き返す。

「身長が芹香より高くなったら告白しようって決めてたんだ……。」

「う……そ……。ホントに……?」

「ずっと好きだったよ。だから、彼女にならないか……?」

「透の……彼女……?」

「あぁ………。」

 透の言葉が透の態度で嘘じゃないことは、ずっと一緒にいた分誰よりも分かっている。

「私が……彼女……?」

「そうだよ……。」

 あまりに信じられない言葉。

 でも、本当の言葉。

 透がずっと言いたかった真実の言葉。



「私も……、ずっと透が好きだったよ……。」



 透が芹香を抱き締める。

 芹香は涙を流しながら透を抱き締め返す。

「透……。透……。好き……。大好き……。」

「あぁ………。」

 透が静かに言葉を紡ぐ。


「やっと、言えた…………。」



 後日。
 
 今日は芽衣と真奈美と三人でカフェで会う約束をしていた。
 芹香は二人に会って、透に告白されて付き合い始めたことを話す。すると、芽衣と真奈美は驚いたような顔をしたもののすぐに言葉を紡ぐ。


「やっと、透くん、芹香に告白したのね。」
「ホント。長い片思いだったものねぇ~。」

 二人の言葉に芹香が戸惑う。

「え……?え……?どういうこと……??」



「「だって、透くんの気持ち知っているから」」



「え…………?」

 芽衣と真奈美の言葉に芹香が一瞬理解できなくて固まる。

 そして……、


「えぇぇぇぇぇぇ~~~~!!」


「「声がでかい!!」」


 バシン!!ピコン!!
 
 大声を出してしまった芹香を窘めるために、真奈美がハリセンで頭をはたき、芽衣はピコピコハンマーで叩く。

「い……、いつから知っていたの?」

「私は小五の時に透くんから聞いているわ。」

 真奈美が答える。

「覚えてる?私が透くんに告白するっていう話。その時に聞いたというより確認したのよ。」

 そう言って芽衣は透に告白した日の事を話し始めた。


 回想。

「あのね、透くん。私、透くんのことはすごくいい人だと思う。彼女になれればいいなって思った。」

 芽衣の言葉に透は戸惑う。

「ごめん、俺……」

「うん、知ってる。芹香ちゃんのことが好きなんでしょう?」

「な……なんで……?!」

「多分、幼稚園の時からずっと片思いしているんじゃない?」

「なんで、幼稚園の事……」

「覚えてないと思うけど、私ね、半年だけその幼稚園にいたの。透くんと芹香ちゃんとは同じ教室だったんだよ?」

「え……?」

「透くんの気持ちは、鈴本さんも知っているんじゃない?」

「あぁ………。」

「透くん。良かったら私と友達になってくれない?」

 芽衣が笑顔で言う。

 透はその言葉に微笑みながら返事をした。

「あぁ、いいよ。」


「つまり、芽衣ちゃんも真奈美も私の気持ちだけじゃなくて透の気持ちも知っていたってこと?!」
「まぁ、そういう事になるわね。」

 芹香の驚きの言葉に真奈美があっさりと答える。

「まぁ、芹香もようやっと長年の恋が実ってよかったじゃない。」
「そうね。まぁ、二人の恋を影ながら見守っているわ。」

 二人の言葉に感動で芹香は涙目になる。

「今日はこれからデートなの?」

 芽衣が聞く。

「うん。仕事が終わったらドライブに行こうって……。」

 芹香が少し顔を赤らめて嬉しそうに答える。

「楽しんでくるといいわよ。」

 真奈美が優しく言葉を紡ぐ。


「二人とも、ありがとう!!」


 夕刻になり、芹香がリビングで透の到着を待っていると、母親が顔を出した。

「透くん、来たわよ~」
「はーい!!」

 玄関にある鏡でもう一度おかしなところがないかチェックして家を出る。

「お待たせ!透!」
「よし!行くか!」

 透の車に乗り、出発する。
 三十分程車を走らせる。途中からは山道になっているところを走り始めた。そして、ある場所に駐車して、車を降りる。

「芹香、こっちだよ。」

 透に手を引かれてある場所に案内される。

 そこは…………。



「キレイ…………。」



 かなり上の方から眺めることができる工場地帯の夜景だった……。

 夜景を見て、芹香が感嘆の息を吐く。

 写真を撮るために大学で学んだ技術を使って撮影を試みる。

 パシャッ!!

 パシャッ!!

 何度もシャッターを切る。

 夢中で写真を撮る芹香に透が後ろから抱き付いた。

 そして、囁くように優しく言葉を紡ぐ。

「俺さ、幼稚園の時に芹香を見て、元気で良く笑う子だなって思ったんだ。まるで、夏の花の向日葵みたいな子だから、この子の傍にいたら俺もあんな風に笑えるかもって思ったんだ。多分、俺はその頃から芹香のことが好きだったんだと思うよ……。」

 透の言葉に芹香は涙を流す。

 優しい透……。

 冷たいくせにいざという時は守ってくれる……。

 そんな透だからずっと大好きだった……。

「私も大好き……。これからもずっと大好きだよ……。」

 芹香が透の方に顔を向ける。


 唇が重なる……。


 優しい口づけ……。


 芹香と透の想いが実る。


 明るく元気な向日葵はいつも優しい日差しに包まれていた。


 そして、これからもずっと…………。



(完)
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