第1話

文字数 1,933文字

〜俺〜
あいつは最近写真ばかり撮ってる。
カメラにハマったのか、ずっとだ。

この前あいつと喧嘩をした。
友達の少ない自分に比べてあいつは友達も多くて、すごく充実したやつだ。
さぞあいつの見てる世界はキラキラ輝いているんだろうと思う。
だから、そのまま言った。いいよなって。
そしたらニコニコした柔和なあいつが、ふと俺みたいな顔をした。
「────」

「どうした?」
他のやつらと話してたあいつが気付けば目の前にいた。
「あ、いや、ぼーっとしてた」
「ふ、帰ろう!」
「うん」

帰り道、あいつはやっぱりパシャパシャ写真を撮ってる。
俺といるのがそんなに暇なら別に一緒に帰ったりしなくていいのにな…
「ん?なんか言った?どした?」
なんて呑気な顔して言うから
「お前って鈍感だよな」
って言った、そしたらあいつは
「ふふふ」
ってなんか知ったように笑って、またシャッターを切った。


〜僕〜
あいつは鈍感だ。
だから教えてやるんだ。僕の見てる世界を。
お前が見てる僕の世界と僕が見てる僕の世界は違うって。

あいつはいつも僕を羨んでいるようで、
だけど僕からすると、あいつが見てるのは僕じゃなくて
どこかこう…理想?
僕を通してあいつが思い描く理想の世界を見ているようで
いつもそれが気に食わなかった。
だってそんなの僕じゃない。
お前のユートピアだ。僕の世界じゃない。
だから、教えてやるんだ。僕の見てる世界を。


〜俺〜
5月なのに良すぎる天気はさながら夏だ。
天気が良いと俺はちょっと困る。
そんな幸せそうにされても、俺はどうしようもないから。

「なぁ、GWどっか行ったりするの?」
「え、いや特には…」
この手の質問も苦手だ。
俺のただの日常が、何も“ない”日ということになる。
遠くで鳴っていた音が耳元で鳴るような感じがする。
「じゃあさ、僕の家来ない?」
「お、い、行く」
あいつは笑顔にまた笑顔を重ねた。
俺とは違って楽しそうな忙しそうなあいつ。
俺は困る。汚れたスニーカーに目を落とす。


〜僕〜
僕にとってあいつは自分の世界があって
かっこいいやつだと思ってた。
周りのことなんてただの背景で、僕には見えないものを見てるような気がしてた。
でも理科の実験のとき、なんとなく
「一緒にやる?」
って聞いたら
「え、いいの」
って言ったんだ。意外だった。
僕の世界とそんなに遠くないような気がした。


〜俺〜
あいつの家に来るのは3回目くらいだ。
家の人と会ったことはないけど、
生活感が溢れるこの家はあいつと似てる。

「ほい、ジュース置いとくね」
「ありがと」
部屋を見回すと、勉強机に積み重なった写真が見えた。
「あ」
「ん?」
「写真、お前最近ずっと撮ってるもんな」
「あー、見る?」
あいつはいつもとちょっと違う顔で笑った。

床に広げられた写真は結構な量だった。
ぱっと見は知らない世界を写したような写真たちに
少しずつピントが合うと
どうもそれは見知った世界だった。

教室の壁のボロいところ。
「男子トイレ」が「男一トイレ」になってる入り口のプレート。
帰り道の踏切の誰がつけたかわからないクマのキーホルダー。
並ぶ影。

「なにこれ」
「ん?僕の見てる世界。」
「は、何それ。ただのいつも見てる光景じゃん」
「どう?キラキラしてる?」
「え…」
「僕、見せるって言ったじゃん。この前」
「あ…」
この前俺がお前はいいよなって言って、
あいつが俺みたいな顔をして「じゃあ見せる」と言ったんだ。
小さかったし、何よりその顔に驚いて、なんかちょっと怖くて
聞いてなかった。

「じゃあ、見せるために写真撮ってたの?」
「うん、そうだよ」

馬鹿じゃん。

でもあいつの世界は俺が思ってたより、
すごく普通で、
俺が思ってたのと全然違った。

全然違くて、だけどやっぱり
なんか良かった。


〜僕〜
僕の見てる世界を見せた。
だけど多分、あいつにはまた違って見えるだろう。
全部違う。
僕が見てる僕の世界
あいつが見てる僕の世界
僕が見てるあいつの世界
あいつが見てるあいつの世界
答えを合わせるなんてきっとできない。

だけど、答え合わせはきっと楽しい。

だから、お前の世界も見せてほしい。
きっと僕が思ってるのと全然違うし、そんなに遠くもないかも。

ま、鈍感だから、わからないかもしれないけどね。


〜俺〜
俺にとってあいつは世界が広くて
キラキラしたやつだと思ってた。
たくさんの人たちとどこまでも行けて、俺には見えないようなものまで見えてるような気がしてた。
でもあいつが見せてきた世界は
俺も見たことがある世界だった。
意外だった。
そんなに遠くないと思った。

でも俺が見てる世界と同じはずなのにやっぱり違くて、
ずっとキラキラして見えた。

だから、俺の見てる世界も教えてやらなきゃ。

あいつは鈍感だからきっとわからない。

俺とお前は全然違う。

お前の世界と、この世界

見せてやるからちょっと待ってろ。



パシャ────





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