第1話

文字数 1,041文字

 拾われてきたとき、この家には母さんと父さんと猫の私しかいなかった。窓が大きい温かい家は居心地がよく、のんびり好きに暮らしていた。
 母さんはしばらくするとどこかへ出て行った。だから父さんと2人で暮らしていると、今度は父さんが母さんを連れて帰ってきた。そのとき母さんが抱えていた小さな“生き物”は母さんにそっくりだった。
「まろ、あなたの妹のサヤ。4歳下だね。仲良くしてあげてね。」
小さくて、すぐに泣く。まるくてツヤツヤでいいにおいがする。毛が少なくてふしぎだった。母さんも父さんも小さいのをあれこれ世話していた。寝ているとおとなしいが起きると声が大きい。ビックリした。遠くから見ているとサヤはたまにじっと見つめてくることがあった。なんだか変な気持ち!調子が悪くなった気がしてすぐに窓辺に逃げていた。
 サヤはどんどん大きくなって、一人で動けるようになると、
「にゃんにゃん!」
と言って私を追いかけてくるようになった。一番苦手な尻尾を掴まれることもあった。ゾワゾワするが、我慢我慢。私はサヤより4つも歳上なのだから。
 ある時はテーブルの下にいる私を見つけ、捕まえようとして頭をぶつけたこともあった。ちょっとしたことで、大きい声でワンワンと泣く。ああこの子は、おとなが大事にしてやらなきゃいけないのだと分かった。それからというものの、いつもサヤのそばを離れないようにした。追いかけっこでぶつかりそうなものがあれば、さりげなく遠ざかるように誘導した。昼寝をしないときは布団のそばで眠くなるように丸まっていた。私ではどうにもならないことになったら、母さんを呼んだ。そうやって毎日一緒にいると、サヤは私の名前を呼んでくれるようになった。そのうち一人で立って歩くようになると小さい手で頭や体をなでてくれた。弱い力でそろそろと触られるとなんだかくすぐったかった。
 いくつもの季節を越えるとサヤは倍ぐらいの大きさになっていた。がっこうというところに行ってるらしい、決まった時間に出かけて、帰ってきた。いつも背負っていく四角いカバンはひと休みするにはうってつけだ。中に入っているとサヤは嬉しそうに私を見つめたり、カバンを背負って家の中をぐるぐる歩き回った。
 12歳になるともうサヤの大きさは母さんくらいになっていた。
「まろかわいい。私よりお姉ちゃんなのにずっと変わらないね。」そういって私を慣れた手つきで抱き上げる。
 サヤ、あなたの方がかわいいよ。ずっと元気で、楽しくしていてね。それが16歳の、私の願い。
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