第1話

文字数 1,470文字

ある年の夏、俺らは5年越しに海へ行った。本当は5年前に行く予定だったのだが、一通りの騒動のせいで行けなくなってしまったのだ。

当時、僕らは中学1年生でスキー部という部活に所属していた。スキー部は夏に部活がなく、春や冬に約1週間ほどの合宿があった。スキー部内の有名な恋愛事情としては、僕と慎が愛香という女子に恋していた事くらいだろうか。でも僕と慎は親友と言えるほどの仲で、僕は彼のことを応援していた。愛香はモテモテと言うほどでは無いが、継続的に人気がある女子だ。運動も勉強もある程度できて、可愛い。そして何より優しい。僕らにとって憧れのマドンナだった。

その年のクリスマスイヴ、慎は大会に出場した。慎以外は前乗り合宿に参加していなかったので、大会には出場しなかった。そして前日の夜、とある話をしていた。それは、慎が愛香に告白するということだ。僕は本気で応援していた。ジュニアオリンピックを目指していた同級生からは明日の大会に支障が出るから辞めた方が良いと言っていた。だが先輩たちの後押しもあり、告白は決行されることになった。

告白当日(クリスマスイヴ)、予定通りに大会が開催された。僕らは彼の出番を待っていたが、彼の順番は最後の方なので中々来なかった。そしてやっと慎の名前が呼ばれ、慎が僕らの横を通り過ぎていった。しかし、先生たちの無線からその数秒後「慎、23旗門目で転倒」と伝えられた。惜しくも告白する前にカッコいい姿は見せられなかった。残念そうに帰ってきた慎を僕は慰めた。この結果が全てでは無いからだ。そしてミーティング後、慎は愛香に20時にフロント近くで待ってると伝えた。愛香は時間になっても来ず、友達が必死に説得して連れてきた。慎は中々言い出せず、結局30分程度のロス時間があった。結局告白はしたものの、結果はダメだった。その夜、僕ら2人は部屋で泣いた。翌日も彼は大会があり、1走目は問題無く滑ることができた。しかし2走目のインスペクション(コース下見)中に事件が起きた。彼がバランスを崩して骨折したのだ。そして彼は、その日中に帰ってしまった。

僕らが帰ると、愛香と慎と僕でビデオ通話を週1くらいの頻度で行った。そして、来年の夏に皆で遊びに行こうと言う話になった。それが、1番幸せな時間だった。それから学校は通常通り始まったが、慎は体育の授業を見学しなければならなかった。そして事件は起こった。

食堂で僕と慎が昼食を食べていると、「俺のパスモ盗んだだろ?」と同級生が数名来た。そして慎の胸ポケットからパスモが出てきた。食堂から出て、用事があるからとグラウンドの方へ走って行った。

その後、慎が行方不明となった。その時にはすでに、保健室に保護されていたらしい。彼はその日をもって、停学のような形となった。彼は落ち込んでいて、反省しているようだった。しかし彼は自主退学。もう同じ学校にはいない。彼の判断が正しかったのかは分からないが、彼とは月1回ほどしか連絡が取れなくなった。ほとんど連絡が取れないまま時が過ぎ去っていった。

そして5年後、突然慎から電話がかかってきた。
「夏、空いてるか?5年ぶりに海行かない?」
僕はすぐに承諾した。愛香も快く承諾した。
高3の夏、俺らは海に出かけた。慎の顔つきはあの時より全然大人っぽくなった。でもよくよく考えたら、定期的に愛香と会っていたから気づかなかったが、愛香も顔つきがあの時より全然大人びた。そして慎は半年後だが僕と愛香は成人した。僕は嬉しくてならなかった。そしてまた再び、3人の恋の物語が幕を開けたのであった。
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