第1話
文字数 1,244文字
今、私は真っ暗なところに閉じこめられている。外に出なくなってからもうどれくらい経つだろうか。
私は、彼女と外に出かけるのが好きだった。バスに乗るときも、病院に行くときも、雨の日だって、お互い寄り添いながら一緒に歩いた。彼女は少し目が悪いから、私が彼女より一歩先を行って、水たまりや段差を教えてあげた。時折、私の頭を優しくなでる柔らかくて少し冷たい手が好きだった。
いつも彼女は私を連れて外に出る。そんな日常が崩れてしまったのはある春の日のことだった。家に帰ろうと歩いても、一向に家に着くことができなくなってしまったのだ。
「おかしいわねぇ・・・」
彼女は何度かそう呟いて、歩いた。日が暮れる頃、疲れきった彼女は公園のベンチにどしりと座った。大きく息を吐いて、私の頭を優しくなでた。そうしているうちに、彼女はこっくりと船をこぎ始めた。
いけない。
空に星が瞬き始め、風が冷たくなってきている。このままでは風邪をひいてしまう。私は風を利用し、彼女の手から抜け出そうと体を揺らした。つい勢いを出し過ぎて、カランと転んでしまった。幸いなことにその音で彼女はハッと目を覚ましてくれた。転んでしまった私を起こし、また一緒に歩き始めた。
「帰らなくちゃ。」
手から彼女の不安が伝わってくる。大丈夫。私がいるから。一緒にお家に帰ろう。
公園を出たときに、ふいに大きな声が聞こえた。
「おばあちゃん!!」
たくさんの人が駆け寄ってきて、あっという間に取り囲まれた。どうやら迎えに来たらしい。車に乗っている間、彼女はずっと怒られていた。「すまないねぇ」と何度も彼女は言った。彼女の悲しい顔に私まで悲しくなった。
早くまた彼女と外に出かけたい。彼女は道ばたに咲いている花を見つけると、立ち止まって優しく微笑む。他にも、すれ違う犬に会釈したり、ゴミ捨て場を軽く箒で掃いたり、彼女は外にいるとき生き生きとしていた。
彼女に元気になってほしくて、彼女と出かける日を楽しみに待った。しかし、次に私の手をとったのは怖い顔をした息子だった。
「これも隠しとかないとな。また勝手に外に出て行かれたら困る。」
やめて!と叫んでも、息子は乱暴に私を物置の奥に突き飛ばし、どこかに行ってしまった。それ以来、私は彼女の顔を見ることはなかった。
彼女に会いたい。彼女とまた一緒に外に行きたい。暗闇の中でひとりずっと願っていた。
雪がしんしんと降りゆく夜。ふと誰かに優しくなでられ目を覚ますと、彼女がそこにいた。
「こんなところにあったのね。」
彼女の手が笑顔が懐かしく、ふいに涙が出そうになった。また一緒に外に行ける。そう思ったけど、どうやら私はいらないみたいだ。だって、彼女は1人で元気に歩いていた。
「おじいさんが迎えに来たの。今までありがとうね。あなたがいたから私、すごく楽しかった。」
そう言って彼女は、おじいさんと一緒に楽しそうに空へと歩いて行った。
あぁ、私。あなたの杖で本当によかった。
私は、彼女と外に出かけるのが好きだった。バスに乗るときも、病院に行くときも、雨の日だって、お互い寄り添いながら一緒に歩いた。彼女は少し目が悪いから、私が彼女より一歩先を行って、水たまりや段差を教えてあげた。時折、私の頭を優しくなでる柔らかくて少し冷たい手が好きだった。
いつも彼女は私を連れて外に出る。そんな日常が崩れてしまったのはある春の日のことだった。家に帰ろうと歩いても、一向に家に着くことができなくなってしまったのだ。
「おかしいわねぇ・・・」
彼女は何度かそう呟いて、歩いた。日が暮れる頃、疲れきった彼女は公園のベンチにどしりと座った。大きく息を吐いて、私の頭を優しくなでた。そうしているうちに、彼女はこっくりと船をこぎ始めた。
いけない。
空に星が瞬き始め、風が冷たくなってきている。このままでは風邪をひいてしまう。私は風を利用し、彼女の手から抜け出そうと体を揺らした。つい勢いを出し過ぎて、カランと転んでしまった。幸いなことにその音で彼女はハッと目を覚ましてくれた。転んでしまった私を起こし、また一緒に歩き始めた。
「帰らなくちゃ。」
手から彼女の不安が伝わってくる。大丈夫。私がいるから。一緒にお家に帰ろう。
公園を出たときに、ふいに大きな声が聞こえた。
「おばあちゃん!!」
たくさんの人が駆け寄ってきて、あっという間に取り囲まれた。どうやら迎えに来たらしい。車に乗っている間、彼女はずっと怒られていた。「すまないねぇ」と何度も彼女は言った。彼女の悲しい顔に私まで悲しくなった。
早くまた彼女と外に出かけたい。彼女は道ばたに咲いている花を見つけると、立ち止まって優しく微笑む。他にも、すれ違う犬に会釈したり、ゴミ捨て場を軽く箒で掃いたり、彼女は外にいるとき生き生きとしていた。
彼女に元気になってほしくて、彼女と出かける日を楽しみに待った。しかし、次に私の手をとったのは怖い顔をした息子だった。
「これも隠しとかないとな。また勝手に外に出て行かれたら困る。」
やめて!と叫んでも、息子は乱暴に私を物置の奥に突き飛ばし、どこかに行ってしまった。それ以来、私は彼女の顔を見ることはなかった。
彼女に会いたい。彼女とまた一緒に外に行きたい。暗闇の中でひとりずっと願っていた。
雪がしんしんと降りゆく夜。ふと誰かに優しくなでられ目を覚ますと、彼女がそこにいた。
「こんなところにあったのね。」
彼女の手が笑顔が懐かしく、ふいに涙が出そうになった。また一緒に外に行ける。そう思ったけど、どうやら私はいらないみたいだ。だって、彼女は1人で元気に歩いていた。
「おじいさんが迎えに来たの。今までありがとうね。あなたがいたから私、すごく楽しかった。」
そう言って彼女は、おじいさんと一緒に楽しそうに空へと歩いて行った。
あぁ、私。あなたの杖で本当によかった。