un jour

文字数 933文字

※プロット段階で書いたものなので、綾華のキャラが現在とは全く異なります。
ビフォーアフター(あるいはパラレルワールド)としてお楽しみください。

 とかく、季節の変わり目は何かと忙しい。

 両手に抱えた紙袋には金槌、鋸、ベニヤ板に5寸釘。
 それから、煙草が2カートン。
 鼻歌混じりに階段を上がり、入り口のドアに手を掛けたところで、中から聞こえてきた声に、私は動きを止めた。
「ですから何度も言っているじゃありませんの!」
 ……やれやれ、またか。
 溜息まじりにドアを開けると、中にいた連中の視線が一斉に私に向けられた。
「なーにーをやってるんだ、お前達」
「燈子さん!」
 シフォン生地を重ねたワンピースの裾がふわりと揺れる。仁王立ちのまま振り向いたのは、小柄な少女だ。
 透き通った白い肌。色素の薄い栗色の髪は緩く波打ちながら腰まで伸びている。十人が見れば十人ともが「人形のような」と形容すること請け合いの整った造作。乙女チックな服装とも相まって、まるでおとぎ話から抜け出してきたかのような美少女である。
 ――ただし、黙っていれば。という注意書きが必要だが。
「何を怒ってる、綾」
 私の言葉に、彼女――桐邑綾華は形のよい眉を怒らせる。
「聞いて下さいまし!永津子さんが、また床を踏み抜きましたの!」
「いや、だから仕方ないじゃん」
「永津子さんは黙ってて下さいまし!」
 綾華を挟んだ向こう側で頭を掻くのは、木島永津子。無造作に切ったショートボブ、タンクトップにショートパンツ。高校時代には陸上部で鍛えたという身体は均整が取れているが、大雑把な性格でとにかくがさつな行動が多い。
「……まあ、季節の変わり目だからな」
「でしょー? あたしもそう言ったんだけどさあ」
「あんたはもうちょっと静かに歩きな」
「ほら、ごらんなさい」
「あんたもすぐに怒るんじゃない」
 喧嘩は常に両成敗。これが集団生活を平和に維持するコツだ。
「とりあえず、そこ直すから手伝いな」
「お、ちょうど板持ってんじゃん! さすが燈子さん。先見の明ありってね」
「つまんないこと言ってる暇があるなら、さっさと寸法測りな」
 手にした買い物袋を下ろしながら指示を出す。

 かくも、季節の変わり目は忙しい。

 それもここ、英藍女学院大学学生寮では特に。
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