第1話

文字数 494文字

 病院の裏を流れる大きな川で、恒例の花火大会があります。
 河川敷の向こうには屋台が並び、あざやかな照明と浴衣姿でにぎわっています。いつもはうつむいて院内通路を歩く患者たちも、顔つきが明るくなって。

 自分がいる8階の4人部屋は、特等席。
 陽がかたむいて夜の空気をまとうと、廊下向かいの住人たちも顔を見せはじます。空に飛びあがる口笛みたいな音が鳴ったあと、連発の仕掛けの爆音。それが3,500発の彩色のはじまり。大きな輪がひろがって落ちていくたびに、子供みたいな歓声があがります。

 部屋の照明を落とせば、さらに美しくなって。
 あざやかな花火が夜空一面に咲いていきます。火の粉が降りかかってくるかと思うほど、はっきり見える。

 夜空にきらめく、夏の夜のプレゼント。
 その晩は、心おだやかに過ごせて。
 

 『来年は、違う場所で見よう』


 1年前に約束した、同室の4人。別々の時期に部屋を去ったけど、ひさしぶりの大輪をそれぞれどこでながめていたのか。あのときの会話と楽しかった雰囲気を、思いだしてくれているのでしょうか。

 たった一夜の、ささやかな夏のプレゼント。
 ほろ苦くもうれしかった、ちいさな思い出。
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