しろいつばき

　


　ゆきのふるばんでした。

　いろりのひがパチパチとおとをたてています。

　じっちゃんのつくったごはんをたべながら、こゆきがききました。

「おっかちゃんは、どこにいるの？」

「うむ……ふたつやまをこえたところじゃ」

「……いつ、かえってくるの？」

「うむ……ゆきがとけたらなぁ」

「いつ、ゆきはとけるの？」

「うむ……あたたかくなったらなぁ」

「ふぅーん。……はやくあったかくならないかなぁ」

　そういいながら、こゆきはさといもをほおばりました。

「……もうすぐ、なるよぉ」

　そういって、じっちゃんもみそしるをすすりました。



　……いつになったら、あったかくなるの？ずーっと、ずーっとさきだ。だって、まだ、ゆきがふってるもん。……おっかちゃんにあいたいなぁ。――




　こゆきは、じっちゃんがねむりについたころ、いえをそっとぬけだしました。

　かおもしらないおっかちゃんにあいたかったのです。

　ふたつやまをこえたら、おっかちゃんにあえる。





　ギュッギュッ

　つもったゆきをふむ、こゆきのあしおとしかきこえません。

　……おっかちゃん。

　こころのなかでそうよびながら、おぼつかないあしどりでやまみちをのぼりました。

　すべってはのぼり、すべってはのぼり。

「ハアハア……」

　いつまでたっても、まえにすすめません。



　こゆきはつかれはてて、そのばにたおれてしまいました。

　……おっかちゃん。





　どのぐらい、そのままでいたでしょうか……。

「こゆきや」

　おんなのひとのこえがしました。

　こゆきはゆめをみているのだとおもい、めをあけませんでした。すると、

「こゆきや、さあ、おうちにかえりましょう」

　ときこえました。

　ゆっくりとめをあけると、そこには、しろいきものをきた、ながいかみのおんながほほえんでいました。

「……おっかちゃん？」

　こゆきはめをまるくしました。

「さあ、おいで」

　おんながりょうてをひろげました。

　こゆきはいそいでたちあがると、おんなにかけよりました。

「おっかちゃん！」

　こゆきはうれしそうにおんなにだきつきました。

　おんなのかおをしげしげとみつめ、そして、そのかおにふれました。

「あったかいほっぺ。……おっかちゃん」

　こゆきはおんなのやわらかいちぶさをつかむと、あんしんしたようにねむってしまいました。――






「こゆきやー」

　じっちゃんのこえがしました。

「そんなとこでねたら、かぜひくぞ。さあ、ふとんにはいって」

「むにゃむにゃ……」

　ねむたいめをこすると、うすめをあけてみました。

　いろりのほのおがゆれているのがみえました。

　いろりばたでねむっていたようです。

　……あれぇ？どうしておうちにいるの？おっかちゃんにだっこされてたのに。あれはゆめだったのかなぁ……。



　じっちゃんが、ふとんにはこぼうとこゆきをだきかかえたときです。

「あれっ？」

　ハッとしました。こゆきのきていたちゃんちゃんこがぬれていたのです。

　……はて、いつのまにそとにでたのじゃろ。



　どまのすみにそろえてあったこゆきのわらぐつには、ゆきがついていました。

　どこにいってたのじゃろ……。

　どうしてそとにでたのか、じっちゃんにはおもいあたりませんでした。





　――そして、はるがきました。

　にわのしろいつばきもさきました。

　こうしまどからしろいつばきがのぞいています。

　そこはちょうど、こゆきのねまがみえるばしょです。

　あさもひるもばんも、いつもいつも、しろいつばきがこゆきのねまをのぞいています。





　じっちゃんはまだ、こゆきにほんとうのことをいっていません。

　もうすこしおおきくなってからはなすつもりでいます。……おっかちゃんのことを。――





　おわり