夢現のナヤミゴト

文字数 928文字


ああ、まだ起きてたの?
早く寝た方がいいって言ったじゃん。
面白い話も眠れそうな話もないよ。
え? 起きてたわけじゃないよ。
最近はなぜかこの時間帯に目が覚めるんだ。
この時間に目が覚めたら見えちゃいけないものとか見えちゃいそうで嫌なんだけどさ。
寝起きなんだけどね、めちゃくちゃ頭がスッキリしてるの。
寝ているはずなのに、瞼の裏の世界が見えてて、ずっと考え事してる。
えー嫌だよ、噛み合わない思考ってすごく不快だし、めちゃくちゃ寂しくなるんだからね。

……じゃあ少しだけね。
どこまでが自分でどこからが自分じゃないかを考えてたの。
たとえば、今日一緒に見た映画あったでしょ?
あの映画のセリフ、すごく感動したし納得したし、なんかね、心のど真ん中にストンって収まった感じしたじゃん。
モヤモヤしてたものにハッキリ名前がついたみたいな。
そう、そんな感じ。
で、それはちゃんと自分の中に名前がついた状態で収まるのね。
でもこれを誰かに伝えるときにその映画のセリフを使っちゃうと、映画を知ってる人からはパクリとか受け売りって言われるでしょ。すごくしっくりくる言葉や思考だったとしても。
モヤモヤを持っていたのは間違いなく自分なのに、名前を借りたら自分のものじゃなくなるの。
この境目ってなんだと思う?
誰かの言葉や名前を使ったら自分じゃなくなるなら、そもそも今ここで眠ってるのは誰だろう。
空っぽな器に既製品を詰め込んだこれは何かのパーティーパックかな。
そんなことを瞼の裏を眺めながら考えてるの。

ほら、聞いてないじゃん。半分寝てるじゃん。
いいよ、いいよ、もう。
いいって本当に、別に、こうなることくらいわかってたし。
「どれも自分だよ」とか、そんなフワッとした答えが欲しいわけじゃないから何も言わないで。
何か言われるとまたモヤッとしたものが増えちゃう。
で、またどこかで名前がついちゃったら自分じゃない何かが増えて困るでしょ。

人と違うってことを馬鹿にして笑う人もたくさんいるけどさ、人と同じってことを個性がないって馬鹿にして笑う人もたくさんいるよね。

……ああ、ごめん、睡魔。
え、続き? 物好きだねぇ。
わかった、次起きたときにまだこの話を覚えてたらその時話そう。
なんだか今度は、いい夢が見られそうなんだ……。

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