第1話「拝啓、七番目の勇者様」

文字数 2,588文字

拝啓、七番目の勇者様。
俺は六番目の勇者だよ。

よう、調子はどうだい?
華々しい音楽で迎えられて、お姫様の手にキスをして。
美酒や美食を振る舞われて。

そんでけっこう、いい気分になってあてがわれた部屋に戻って来た。
そんなとこか?

俺もそうだった。
初日はとくに楽しかったし、盛り上がったよ。
剣があって魔法がある。
空を見上げりゃ騎士がペガサスに乗ってる。
中世ファンタジーな異世界に来れて、もう最っ高ってさ。

二日目以降も悪くないよな。
レベルやらスキルやらのゲーム要素。
敵はいるしけっこう強いけど、順を追って戦っていけばそこまで苦労しない感じもRPGっぽくてワクワクした。

なんて、失敗した俺が言っても説得力ないか。

失敗……そう、たぶん俺は失敗したんだ。
おまえがこれを読んでるってことがその証拠だ。

なあ、おかしいと思わなかったか?
自分が七番目の勇者だって聞いてさ。
じゃあそれまでの勇者はいったいどうしたんだよ、魔王の前にことごとく討ち死にか?
そう思わなかったか?

俺は思ったんだ。
思って、調べた。

まず一人目。

神奈川の暴走族の特攻隊長、風見健吾はパストゥールの大森林で死んだ。
魔法を得意としていたそうだが、巨大なスライムに頭上から襲われてな、口に大量の粘液が入ってきて何にも唱えられずにやられちまったそうだ。

んで二人目。
中国福建省の拳法家、王健来はシンの沼地で底なし沼にいきなりズボン。
接近戦じゃ誰にも負けないほどの強さを誇っていたそうだが、手も足もきかない泥の中じゃどうにもならなかったらしい。

三人目。
ベドウィン族の戦士アリ・アルフィはジョイラの大迷宮だ。
最深部を目前にして警報の罠に掛かった。
弓の名手だったが、辺りをモンスターに囲まれてはさすがにな。

四人目。
ノースカロライナの大学教授アザリー・メイは最果ての塔の最上階でロック鳥に襲われた。
百階を登り切って油断してるところをバクン、だってさ。
最高位の治癒魔法を使えたそうだが、ひと呑みにされちまっちゃあな。

五人目。
カナダの天才数学者、パーシー・アラモンドは悪徳の街ギャリンカの宿だ。
朝になっても起きて来ないのを怪しく思ったパーティメンバーが部屋を訪ねてみたら、もぬけの殻だったんだと。
残されていた食事には遅延性の麻痺薬が盛られていて、おそらく昏睡状態に陥ったところを誘拐されたんじゃないかって話だ。
相当な切れ者だったらしいが、舌はバカ舌だったんじゃないかってさ。

以上だ。
性別に国籍、人種や職種まで様々。
年齢も十六歳のパーシーから四十三歳の王まで幅広い。
死亡時のレベルは平均六十。
上限である百には程遠いが、誰ひとりとして弱い奴はいなかった。

油断が原因と言われりゃあそれまでだ。
注意深く行動していれば、どれもこれも避けられたはずの死だもんな。

だけどなあ、おかしいと思わないか?
この中の誰一人として、死体が返って来た奴がいないんだよ。

みんながみんな単独で行動してたんだったら話はわかるぜ?
だが、徹底した個人主義者であるアリを除いた他は全員、パーティを組んでたんだ。
にも関わらず、ひとつたりとも死体が回収出来ていない。

死因が死因だけにしょうがないだろって?
わかるが、それでも確率がゼロってのは気に食わない。

だから俺は調べたんだ。
その結果、ひとつ気になるところを見つけた。

すべての勇者は、最初に国選のメンバーを付けられる。
勇者の素質を補える者を基準に三人から四人。
勇者によっては個人でメンバーを追加してた者もいた。
そして、俺も含めた六人の勇者に必ず同行している奴がいる。
アリですらもとうとう追っ払えなかったそいつは、いわゆる案内妖精だ。

多分おまえも紹介されるはずだから覚えておけ。
手の平サイズの妖精。
ピンク色の巻き髪の女で、名前はラキカ。
そこら中をヒラヒラお気楽に飛んで、ぴーちくぱーちくよく喋る奴。

俺はこいつが何か知ってるんじゃないかと思ってる。
成長した勇者があっさりと死ぬ理由。
絶対に死体が返って来ない理由。

これから、ラキカの行動を追ってみるつもりだ。
勇者と一緒に行動していない時はどこで何をしているのか。
交友関係は、他者や国からの評価は、誰かに弱みを握られていないか。

もちろん油断はしないぜ?
俺は慎重派だし、勘もいいほうだからな。

この手紙が無駄になることを祈るぜ。
なんて、勝手に悲観して湿っぽくなってる場合じゃないな。
少なくともこれを書いてる時点で、俺はぴんぴんしてるわけだし。

あー……ごほん。
いいか? これだけは覚えて置けよ?

こっちの世界の人間じゃ読めないように、この手紙は日本語、英語、中国語、アラビア語で書き分けている。
隠し場所は勇者が一番最初にあてがわれる居室の、机の下の二重底。
勘のいい奴なら気づくだろうし、悪い奴なら忠告しても無駄だ。
そういうつもりで隠した。

死にたくないなら、おまえに話しかけてくる者すべてを疑え。
王も姫様もパーティメンバーも、当然ラキカもだ。

俺たちを罠に嵌めようとしている奴がいる。
嵌めて殺して、何ごとかを為そうとしている。
あるいは殺すことそのものが目的なのかもしれないが、天才である俺でも、さすがにそこまではわからない。

最後になったが、俺の名は藤堂マクシミリアンだ。
おっと、変な名前だなんて笑うなよ? 
グランマがイギリス人なんだ。
相性はマックス。
工学院の大学生で、それなりに上手く人生を謳歌してた。
戻れないのはだから、けっこう悔しいことなんだ。

なあ、七番目。
おまえに頼みがあるんだ。
首尾よくおまえが現実世界に戻れたなら、この件を伝えて欲しい人がいる。
矢代あずみ。
同じ大学に通ってる、俺のガールフレンドだ。
090-****-*****
この携帯番号にかけて、俺の陥った状況と結末を伝えてくれ。
あずみは賢いコだから、その後のことは上手く取り計らってくれるだろう。
諸所への連絡も含めてな、悪いけど。



……なあ、七番目。
出来ればさ、あずみにこう伝えてくれよ。
「愛してるよ、ごめんな」って。
「直接言ってやれなくて、ごめんな」って。
なあ、頼むぜ。
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