第1話

文字数 1,510文字

篠宮さんは、好きという感情が抑えられない人で、その想いが妄想や順序や段階を踏み越えていってしまうのです。


彼は、いつも残業をしている。
帰り着くのは夜の8時ぐらい、朝の8時には出勤して、だから、私も会話ができない。もっといろんな事を喋りたいのに、疲れている彼を隠れて見ながら、私も眠りにつく。

彼の方が先に起きていて、身支度を始める。
意外と部屋は綺麗だと思う。
軽い掃除しかしていないのに、元々、部屋を散らかさないタイプなんだと思う。

彼の部屋には、よくペンギンのグッズがある。
大好きなんだと思う。
私も隙を見て、彼の携帯を盗み見る。
携帯画面からペンギンが映る。
YouTubeもペンギンの動画が多い。
携帯を触られるのは大嫌いだから、絶対にバレないようにしている。
そもそも絶対にバレてはいけない事を、私はいっぱいしている。

彼との出会いは、本当に偶然であった。
当時、彼は大学生であり、コンビニ店員であったた。私がレジで支払いにもたついていると、後ろの怖いお兄さんに怒鳴られた。
後ろの怖いお兄さんは、別のコンビニ店員さんが別レジへ誘導してくれた。
泣きそうになる私に、気にしないで下さいね。ゆっくりでいいですよ、と言ってくれた。
その何気ない優しさに、私は惹かれたのだ。

そこから、少しずつ、少しずつ、彼との距離が近づいていった。
付き合おうという言葉は言われていないけど、私達は、互いに好きになり、恋人になったのだ。

まだ、付き合っていない頃には、彼にも彼女がいて、本当に悪いと思っているけど、私の方が彼の事を絶対に好きだから、念力を送って、別れてほしい、別れてほしいと、強く強く、念力を送った。
そうしたら、本当に彼と当時の彼女は、別れたのだ。自分の念力の凄さにびっくりした。

しかし、これで、邪魔者は消えて、彼と私で付き合う事ができたのだ。

でも、彼はなかなか素直に私の思いを受け取ってくれないと思うから、こうやって、部屋に隠れて身の回りの世話をしている。

私がここにいる事に、彼はきっと気づいてくれている。だって、たまに目があったりするんだもの。


松田さんは、好きという感情に相手を思いやる感情が欠落しています。自分本意の考えより、相手を思いやる感情を学んだ方がいいでしょう。


コンビニで働いている時から、彼女の怪しさには気がついていた。
毎日、毎日、私のレジに並んで会計をする。
会話してくる。
持参したお弁当を渡してくる。
行為に見かねた店長が出禁にした。

付き合っていた彼女に、妙な手紙が入っていたりする事があった。彼氏と別れて下さい、と書いてある手紙や、淫乱女と書いてある紙を玄関のドアに貼られたりしたらしい。
他にも、無言電話なども度々あったらしい。

当時は煩わしく思っていた。
だが、考え方を変えた。
好きならなんでもしてくれるのではないか、
そう思うと、なんだか楽しい想像ができた。
俺は、容姿はいい、だから、いろんな女とも付き合う事ができたし、いろんな事ができた。
今まで、なんでも上手くこなす事ができた。
ただ、ギャンブルだけは失敗した。
借金を背負って、色んな事をしたペットとも別れた。だから、残業なんかして、借金返済にあてている。

新しいギャンブルとして、この女に借金を背負わせ、新しいペットとして飼う事はできないだろうか、借金もなくなって、楽しい遊びができるペット、最高じゃないか。

あの女は全くもって、私がまだ、気づいていないと思っているのだろうか、面白いペットだ。

押し入れにいる女に、目を合わせ、笑いかける。
彼女は恍惚とした表情を浮かべる。
ペンギンのキーホルダーを揺らす。

そうだ、新しいペットの名前はペンギンにしよう。名前だけでも、可愛くしてあげないとな。



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