第8話

文字数 770文字


《ペンギン・カフェ》のカウンター横の
小さな壁には今までの記録が飾ってある。

これまでの主役は南極観測隊と
大壁面のペンギン達との記念撮影だった。

今日はその隣に1枚の額が打ち付けられた。
「曲がってませんか?」
『カウンターのタカフミさん』が後ろの
マダムに聞く。

マダムはしばらく思案して満足そうに頷いた。
「とっても素敵」

額には数枚のペンギン・コースターが
並べられている。
その中の1枚には直筆のサインがある。

『ミス・ハンプティ/小日向 文乃』

「文豪の執筆メモが飾ってあるなんて
イギリスの老舗パブみたいですよね」

タカフミさんがちょっと誇らしそうに
言うと、マダムはウフフと笑った。
その時ちょうど

「マダム!ミス・ハンプティがでてますよ」
テレビスペースでお茶をしていたミヨちゃんが叫んだ。

『今日は昨日、女流作家の最高峰の賞
《女流文学賞》を受賞されました
ミス・ハンプティ、小日向文乃さんに
お越し頂いてます。
おめでとうございます、文乃さん』

女性アナウンサーの声が聞こえる。
画面には緊張というより、
ポカンとした様子の文乃さんが映っていた。

『受賞作の《エッグ・ノック・エッグ》は
シンプルな朝食卵料理とそれを食べる人の
1000本連載企画で、
連載中の作品が受賞するのは初という事と
玉子の1000本ノックというインパクトが
受けて重版に次ぐ重版…。
…近く海外でも出版を…」


その頃、テレビの前では
ミヨちゃんがふと考え込んでいた
「なんか、ミス・ハンプティの今って
アレですよねアレ!えーと…」

「わかった!石の上にも3年!」
とミヨちゃん。

「千里の道も一歩から!」
とタカフミさん。

「好きこそものの上手なれ」
とマダム。

2人は顔を見合わせて「それだ!」。


テレビではまだポカンとしている
ミス・ハンプティが映し出されていて、
フクちゃんは不思議そうに画面を見つめて
『ナ、ナ、ナ』と鳴き続けていた。
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