第1話
文字数 592文字
紺碧県道60号線
幅の広い道路を歩いた。燃え滓のような街明かり。夜。ひと気があるようなこの道に、ひと気はない。中央分離帯では、裸の木が橙色に照らし取られて、貧しく枝を開いている。駅から、すでにどのくらい来ただろうか。暗い道路は幽霊のようで、まばらな街灯だけが、その輪郭を明らかにする。新鮮なアスファルトは、ただなだらかに続き、地平線で遠景に摺りつぶされた。僕は、重いリュックに背負わされながら、その上を歩く。丘の上には、煌々と光るガソリンスタンド。夜。開けた空に星はなく、湿っぽい風が鼻先を撫でる。
どんなものも、僕が目を離したすきに、過去に変わっていく。大量に食べて、僕は勝手に成長して、さっき食ったものなんて覚えていない。どんなに美しいと思っても、また無価値だと思っても。白線の厚みが、街灯に浮かび上がる。幅の広い道路を歩いた。燃え滓のような街明かり。夜。愛し愛されたい。ひと気が立つようなこの街で、僕のことを、好きだと言ってくれる人。中央分離帯には信号機。駅から、すでにどのくらい来ただろうか。暗い道路はしかし月に照らされて、整立した街灯が、その輪郭を照らし出す。僕は、重いリュックに背負わされながら、その上を歩く。振り返ると、丸みの上で煌々と光るガソリンスタンド。車の音。ガス臭い風が鼻先を撫でる。途方もなく美しいと思った。僕は勝手に成長して、それを覚えていられないとしても。