1
文字数 2,023文字
大人の妖精になるため最終試験をまた受けていた。人間のふりをして、人間を幸せにするのが合格条件。追試ばかりの僕は簡単な小学生相手にしてもらったのにそれでも合格できない。
最初の試験では、心がよめることを不気味に思われて不合格。人間は心がよめないのだとうことを知らなかった。何度か不審に思われて、超能力とか占い師とかごまかしてみたけれど失敗。後から考えたら余計怪しまれるだけだった。
随分挑戦して、心をよんでいることを隠せるようになった。なるべく話さないというのがコツらしい。今度こそ合格と思った前回は、女の子の恋を叶えたくて片思い相手に伝えてみた。なぜか女の子が泣きだしてしまった。どうやら、大切なことを伝えるだけでは人間というのは幸せになれないらしい。難しい。
余計なことは話さないはわかるけれど、大切なことを伝えないでどうやって人間を幸せにするんだ?
答えは出ないまま試験日になってしまった。それでももう転校生という役は慣れたもので、自己紹介を簡単に済ませて教室を見渡す。今回は5年1組の教室。男女同じ数くらいで、全部で30人くらい。転校生というのが珍しいようで僕を見つめている顔ばかり。
恋愛は大切なことを伝えるても幸せになれないことを学んだから、今度はもう少し簡単そうなのにしよう。ケンカとかどうかな。なるべく仲が良い友達どうし。それがいい。
ターゲットは、転校生が来たっていうのにぼんやりと窓の外を眺めている女の子。妖精の力を使って理由を探ってみたら、やっぱりケンカしていた。相手の男の子はこのクラスにはいないみたいだけれど、女の子どうしよりはやりやすいはずだ。
運良く女の子の隣の席になって、休み時間1人になるタイミングを狙って話しかけてみる。
「ずっと窓の外を見てるけれど、心配なことがあるの?」
「何でもないよ。大丈夫」
笑顔をつくって答えてくれる女の子、僕はそれじゃあ大丈夫じゃない。
「ケンカした?」
「なんでわかるの!」
いけない、びっくりさせてしまった! 慌てて言い訳を考える。超能力者と占い師はだめだから……。
「ほらっ、僕、探偵だから」
「そうなんだ」
この言い訳は成功したようで、女の子は僕はもうわかっているケンカの理由を話してくれた。ここでもう知っているとか余計なことを言ってはいけない。前回までの試験で学んだことだ。
まとめるとこんな感じ。隣のクラスの男の子とは幼稚園からの幼馴染。最近クラスがかわったこともあり、話せる時間が減ってしまった。昨日の休み時間に見かけて話しかけてみたら、違う男の子と遊ぶ約束をしていてすぐ話を変えられてしまった。やっと話しかけられたのにそんな態度をとられたから、女の子が一方的に怒って別れてしまったらしい。
この女の子、自分では気づいてないみたいだけれど幼馴染の男の子が気になっているみたい。でも前回恋愛は大切なことでも言ってはいけないと学んだ。とりあえず仲直りさせることにして様子を見よう。
「じゃあ、僕も一緒に行くからもう一度話しかけてみようよ」
「あなたが一緒に?」
「ほらっ、僕、探偵だし、何か力になれるかもしれないしっ」
「……じゃあ近くにいてもらおうかしら」
探偵という言い訳は本当に便利らしい。
休み時間の少し前、隣の教室に行って、幼馴染の男の子を呼んでもらう。僕は少し距離をとる。元々仲良さそうだし、少し時間が経って冷静になってるはずだからすぐ仲直りして終わるだろう。僕は何もしなくていいはず。
「昨日のことなんだけれど」
男の子を見るなりさらに緊張する女の子。男の子はそれを見ても、そこまで気にしていない様子。
「別にいいよ。気にしてないし」
「気にしてないって何よ!」
急に怒りだす女の子。男の子は困ったようにうつむく。これはいけない。男の子は覚えているみたいだけれど、本当に気にしてないみたいだし、女の子は気にしていてほしかったらしい。
「私話したいことがあったのに! 気にしてないってそんなのひどいよ!」
僕が間に入ろうとしたら、男の子が顔をあげた。
「話したいことがあったのか。休み時間は遊ぶ約束してるから今日は難しいけれど、一緒に帰ってるときなら話聞けるよ。それでもいいか?」
「……うん」
女の子はあっさりと引き下がる。あんなに怒っていたのにわけがわからない。
「じゃあ放課後、下駄箱で」
「……うん」
男の子は外へ遊びに行き、女の子は教室へ戻る。僕にお礼は言ってくれたけれど、ずっと男の子がサッカーで遊んでいるのを眺めていた。
女の子の心の中は、幸せな気持ちでいっぱい。それは男の子と仲直りできたからっていうよりは、男の子が元気に遊んでいるのを眺めているから。それだけで幸せなんておかしい。好きなら近くにいたいとか、一緒にいたいとか思いそうなものなのに。
ともかく、女の子が幸せになったんだから僕は試験合格のはずだ。
しかしなぜ女の子が幸せか理解できなかったから、僕はまた不合格だった。