第四話
文字数 5,626文字
あーだこーだと過ごしていたら、女王と王に会うのだからドレスなるモノを新調させられた。
『初めてのオーダーメードは異世界で』…って異世界ラノベ作品にも出てこなさそうなキャッチフレーズが浮かんでしまい。
あ“ぁぁ、アタシ莫っ迦だわ………アタシは、あまりの恥ずかしさに採寸中と云う事も忘れ、両手で顔を覆いながら床でゴロゴロと
コホン。
最初の内は、色合いだのデザインだのとユリユーが仕切っていたけれど、正直ダサかったので全面的にアタシの要望に沿う形でドレスは作れた。そう『JK仕様』のドレスがね!
「にっしっしっしぃ」
思わずお転婆笑いをしたアタシに『はしたないですわよ』ってユリユー。何か文句でもあんの?
「五年間も、あ~んな事しててぇ、誰が『はしたない』ってぇ? どの口が言うのかしらん」
黒歴史ならぬピンク歴史を
「当分そうして大人しくしててね?」
まぁ、八つ当たりよ。それくらい許されるでしょ? そんなアタシの言動にプルプルしている王女と慌てふためく侍女達は放っておいて、デザイン画に改めて注文を付けるアタシ。
「ここはこーして、ここもこーして。んでもってこんな感じに仕上げてね」
お針子達は仰天するが、んなこたぁお構いなしにデザイン画を描き直すデザイナーさんと、構造を理解しようと頑張るパタンナーさん。うんうん、良いよ~良いよ~。
一応ね、一応アタシのサイズは次の通りよ。
身長165㎝で上から91・57・85の体重は…ゴニョゴニョ…服に体重は関係ないでしょう? コホン、足のサイズは23㎝と身長の割には小さいって良く言われるわ。
こんなアタシは自分の容姿にも自尊心はあるし、告られたのだってかなり多いと思う。高校に入学して半年経った時には、三十人以上に告られてた。
でも、アタシは格闘技一本だから今はまだ彼氏は要らないし、理想は『アタシより強い男』見かけは二の次ね。でも莫迦は嫌いかなぁ、それと俺様ヤローとか下品な男も無理。クチャラーとか最悪、不潔なヤツも駄目。って、結構えり好みしてたわゴメン。
後は、にぃ達に認められた男子じゃないとね。それとアタシには『身体的に問題』があってね、まぁ、それが一番の理由だったりするかもだけれど、それを理解してくれないと付き合うとかナシ。
やいのやいのと騒ぎながらのひと時は、結構楽しかったわよ。
アタシの高校はブレザーだったんだけれど、ドレスは『セーラー服』をベースにした感じに仕上げて貰うの。あんな野暮ったい中世のドレスなんて、アタシの趣味じゃないしね。やっぱドレスと云えど、JKはこれでなくっちゃだわ。
ワインレッドカラーで、ミニのベアトップにセーラー襟を付けたもの。襟はハーフマントタイプね、ロングテールにしたから、後ろから見たらロングに見えるっしょ。
マーメードラインとか好きな人多いけれど、アタシは動きを阻害されるから好んで着ないタイプ。嫌いじゃないよ? 本音は着たくてしょうがないんだけれど、やっぱ動きやすい服装を選んでしまうのよね。
ミニをあしらいつつ、ロングの要素もあるから可愛いと思う。こっちの世界のセンスなんて気にしない気にしない。
それと、同色のアームカバーを付ける。二の腕から手首までのじゃなくて甲までの長さで、中指で引っ掛けるタイプにしてもらったわ。
絵を描き終えると、デザイナーさんが謁見後に大事なお話しをしたいって言ってきたんだけれど「気が向いたらね」って遠回しに断っておいた。
ストレートに言えばよかったかなぁ? って思ったけど、問題が片付かない限りは何も始められないし始めたくもなかったらね返事は濁した。まぁ、ある程度要件が片付いて、気持ちが落ち着いたら時間を作ってもいいかな。
そんなこんなで半日くらい時間を掛けて、このデザインにしたのには訳がある。
謁見の日が楽しみぃ♪
アタシ命名のJKドレスも、二日位で出来上がるみたい。でも、謁見まで三日しかないから大丈夫? って聞いたら『二日間ぐらい徹夜は当たり前で御座います』ってリーダー格らしきお針子さんの微笑は少し怖かった。
◇
湯浴み場事件から六日後、アタシが誘拐召喚されて六日後とも言えるんだけれど、来るべきモノが来たのよ、そう女王と国王への謁見。
建前上は『謁見』って事になっているんだけれど。本当は『謝罪の為の場を設けました』だって。助兵衛息子と
ユリユーにエスコートされ大きな扉の前までやってきた。否応なしに緊張してきたんだけれど、召喚時の事を思い出し怒りでそれを吹き飛ばす。
横にいるユリユーが一瞬『ビクッ!』ってなったのは突っ込まない事にしよう。ドアを抜けた後に、シコタマ怒られるのは目に見えて分かっちゃうから黙っておこう。
扉の左右に控える兵士達が、アタシの到着を知らせる報を告げる。
「コトネ様、ご到着になりまして御座いぃぃぃぃ」
うん、判っちゃいるけれど声デカすぎよ、アンタたち。
あ~うっさい。
耳がキーンってなるのを堪えつつ、開かれつつある扉を凝視する。
さて、どんな結果になるのやら。既に開き直っているアタシは、不敬罪に問われようが構わず考えてた行動に出るだけ。隆慶一郎作、一夢庵風流記の主人公気分でやっちゃいますよ。ゆとりJKの恐ろしさ、身勝手さを喰らわせてやんだからね! 覚悟しなさい。
目の前では高さ5m横幅3mくらいの扉が音も発てずに開いて行く情景に、心ウキウキわくわくしながら玉砕覚悟の女王&国王との謝罪謁見が始まろうとしている。…って言えば面白い?
…んー、緊張解けてないよアタシ・・・…ぷち興奮気味だわ。
ガッコーの体育館より白くて広い室内、大きな窓は天井近くまであり、朱色の絨毯と玉座まで続く二条のラインは映画の中でしか見た事のない王の間…この城では女王の間と言うみたい。
少しの間感動していたアタシに、小声で先を促すユリユー。『おお、あびない、あびない』内声で噛みましたハイ…いいじゃん別にさ、誰も聞いてないし。
真正面の二つの御玉座に座っているのは女王と王と分かる。だって頭に王冠を乗せてるしね、分からない訳がないわ。
二人共真っ白な服で、王冠は銀? じゃないよね、プラチナと思う。
でも、プラチナってお高いんじゃなかったっけ? 王冠のイメージってゴールドだけれどリモアールは違うのかな? これは読んだ本に載ってなかったから、ぷちインパクトだわ。見た目で先手を取るとは、十八禁王族にしてはやるじゃないの。と思ったんだけれど、向こうさんもアタシの姿に度肝を抜かれた様で目を見開いていた。
JKドレス最強かもしんない、ある程度の肌の露出は普通って事も知っていたからね。デザインが奇抜で驚いているんだろうと予想して、横のユリユーを見ると何故か自慢気に顎を上げていた。
『後でお仕置き決定ね』スケジュールをハートメモリーに残しておく。
『心のメモ』とかオッサン臭くて使わないわよ? コホン、まぁそれはイイとして。
慎ましく歩くことを意識しながら、女王と王の前まで進んでいく。
事前に知らされていた通りに、家臣の貴族達の姿は見えないんだけれど。何か人数多くない? 確か女王に王、兄の王子に双子の姉って聞いたはずなのに、玉座の横には二人ばかり人数が多い。
近くまで歩を進めると、その存在の意味が分かった。女王と似ている女性が一人と、王に似ているってかソックリの男性は、あれだ、女王の姉妹だとか王の兄弟だと一発で分るわ、うん。
王って双子だろう、ソックリだもん。双子には双子の子供が生まれやすいって聞いた事があるし、きっと間違いない。王の玉座のやや後ろに立っている人は王より体の線は細く、雰囲気からして弟かなぁ。
そして玉座の前の階段の手前で、謁見の位置に立ち止まる。
本来の謁見の場合は、女王のお言葉を代弁する弁士と云う人がいるらしいんだけれど。今回は不在なので、女王自らお言葉を掛けられる。
「それでは、謁見の儀礼を」
女性の作法は、カーテシーが儀礼とされる。これは、アタシの世界でも似た様な感じだったわ。両手でドレスの裾か腿の横辺りをつまみ、軽くスカートを持ち上げる。
そして目を伏せ、左足をやや後ろに引き少し腰を落とすのが『この世界での儀礼』になっていた。恭しく厳かにと注釈が付いているんだよね。まぁ、
しか~ぁし!
そんな儀礼、してやんない。アタシの視線は女王をガン見、左手でロングテイルになっているスカートの左前を摘むと、左足を少し引きながら、その手を右側へ回す。
右手は拳を握り、腰に当てて肘を張る。僅かに腰を右に捻って、不敵な笑みを女王と王達に向ける。
まるでフラメンコバイレがカルメンを踊っているワンシーンの様な仕草は、この世界で『王族が家臣の儀礼に対しての応礼』とされるモノだった。
ガミ〇スの〇スラー総統っぽいって云えば解る? いいや、分かんないかな。アタシはお父さんが宇宙戦艦ヤ〇トを大好きでDVD全巻持ってるもんだから、その子供でもあるアタシ達は知ってて当たり前の知識なんだよね。だけどガッコの友達には通じなかった。……まぁ、そんな感じの所作をアタシは
すると、女王の傍らの女性が声を荒げアタシの『儀礼』を非難する。
「ぶ、無礼であろう! この
◇
鍛錬の時にユリユーの近衛兵とか(女性騎士)と対戦形式で相手をしてもらったんだけど、ビックリした。だって、アタシの方が強かったんだよ。
これでも武芸一族の中でしごかれてきたから、相手の身のこなしとかである程度の技量は測れる自信はあった。だけど、それ以上に剣技とかがショボいって云うか、型に嵌り過ぎてて、アタシが変則的な動きをすると、付いて来れない人ばかりだった。
隊長や副隊長達には流石に勝てなかった(無手ではギリ勝ったけどね!)けど、彼女等を除けばアタシに敵う人はいなかったから謁見でやらかす算段がついちゃった。だから殺気くらい飛ばしてもどうこう出来る変な自信はある。
◇
だからさ『痴れ者』と言ったその言葉を切っ掛けに、アタシは居住まいを直し、無言のままに発言した女性を
「っ…」
だけど、アタシの視線に言葉が詰まる女性に対して女王が右手を上げて制する。
「いいのよ、ヨウガ」
ヨウガと呼ばれた女性は不満を露にしながらも、女王の命に渋々従い、半歩後ろへ下がる。
「聞いていた通りの方ね、コトネさん」
女王の余裕なのか、母親の立場での物言いなのかは分からないけれど。今の女王の笑みは優しさと申し訳なささを含んだ感じで、アタシの反撃を躊躇させるに充分な態度だったわ。
「まずは、貴女に謝罪をさせて頂きたいのだけれど」とアタシの目を見、次にユリユー、最後に隣に座る王へ視線を向ける。
「私は、ポロ・リモアール。この国の女王にして、コトネさんの横にいる『
そう言うと、ポロ女王は玉座から立ち上がり階段を降りて来て、アタシの正面で深々と
親として家族として、娘の、妹の仕出かした事に謝罪をする四人は本当に申し訳ない面持ちと見て取れた。
直ぐに対価を言い出さない
まぁ助兵衛王子に対しては、鉄拳制裁はしたけれども、あれだけで許す事は無いよ? 確信犯には、それ相応の罰を与えないとね。
「女王様、王様、王子様、王女様の心からの謝辞、確かに頂きました。お顔を、お上げ下さい」
顔を上げた王族五人に対して、ここで本来のカーテシー。リモアールでの正しい儀礼を、返礼としてアタシは執った。
横ではユリユーも頭を垂れていて、沈痛な面持ちはアタシに対してのモノと。軽はずみで興味本位の顛末が家族に迷惑を掛けた事への心情を物語っている様だった。でも、ユリユーはもう少し頭下げてなさい。
そりゃ、国家の長の頭を下げさせるんだものね、それが激ヤバってくらいは
取り敢えず『ごめんなさい』は受け取ったので、これからアタシへの補償内容の提示になるんだろうと思った処へヨウガと呼ばれた女性と王の兄弟であろう人もアタシの前まで降りて来る。
「ヨウガ・リモアールです、先程は失礼を致しました。ユリユーの叔母として私もコトネさんに謝辞を」
云うが否や、深々と頭を垂れる。
「コース・リアーテ・イールー、王チチークの弟であり、ユリユー殿下の叔父になります。身内として僕からも謝辞を申し上げます」
ヨウガの横で右手を胸に当て、礼をするコース。
名前には突っ込まないと決めたので、突っ込まないよ…絶対に突っ込まない。
こうして王族六人からの謝罪を受けたアタシが返答しようと口を開いた時に『ソレ』は起きた。
「???」
玉座が
アタシとユリユーを除いた全員が後ろを振り返り、異様な光景にワナワナと震え始めると、ユリユーも何かに気が付いて上げた顔に驚愕の色が出ていた。