We are サラリーman

文字数 979文字

『休暇届 ゲームをクリアするため』

 デスクに数枚置かれたそれをスマホのカメラに収めると、私は社長のSNSアカウントに投稿した。
 内部の人間だから知っている。子どもたちから見たら私たちの会社は『ゲームや趣味に打ち込めることのできるユートピアのような憧れの職場』だろう。だけど、それは正しくない。
 当然だけども、私たちの会社は娯楽を宣伝する広告会社だ。このゲーム休暇だって、「ゲームをクリアしないと記事や動画にできないから」であり、仕事の一環だったりする。
 遊んでいるように見えるが、遊んではいないのだ。有給を使って、仕事をしている。いや、有給制度すらこの会社にはないのだけども。
 
 私たちの動画や記事は、何時間も頭を捻って、考えて、作り上げたものだ。それなのに、15分やそこらで消費されてしまう。子どもたちはリアクションをくれるが、私たちに騙されている。私たちの『見えない努力』も想像ができなくなってしまっている。

 子どもが鈍感になったのは何故だ。
 子どもの想像力が衰えたのは誰のせい?
 ……私たちスマホの中の人間に子育てを丸投げしている親にも責任があるのではないだろうか。

 私たちの動画は、子どもたちを虜にしている。昔は『広告は偏差値40の人間でもわかるように』なんて言われていた。私はそうは思わない。広告は、真心。人を笑顔にするもの。私たちはそれに成功していると言えるだろう。子どもたちを楽しませているのだから。しかし、育児の全部を押し付けられたらたまったものではない。
 
 これからまた、新しい広告用クイズの打ち合せだ。何度も企業側とのミーティングを経て考えられるそれは、まともに考えている子どもたちなら大歓迎だが、ただ目立ちたいというだけで他人の答えを丸写しするような子どもを育てているのではない。

 私はデスクに座ると、新しい企画書を書き始める。『家族で楽しめる脱出ゲーム』。本当のユートピアなんて、スマホの中にもどこにもない。まずは家庭をユートピアにすることが大切なのではないだろうか。それこそ、私たちスマホの中の人間にはできないことだ。
 ユートピアとはいかなくとも、家庭を居心地のいい場所にすること。それが『家族』に求められている時代だと、私は思っている。

 私たちは仕事であなたたちを抱きしめている。
 あなたたちは最近、大切な人を抱きしめていますか。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み