第1話

文字数 1,362文字

 少年は探偵に妖精を探してもらうことに決めた。彼は幼稚園に通っていた頃、光り輝く妖精の姿を目にした。彼はその瞬間から、それが夢や幻想ではなく、現実であることを信じて疑わなかった。その妖精の姿は、少年の心に深く刻まれ、小学生になっても忘れることが出来なかった。
 少年はその日、学校が終わると近所の探偵事務所を訪ねた。子どもが突然、一人で事務所に来たことに対し、はじめ探偵は困惑したようだった。しかし探偵は、「どうしても話しをきいて欲しい」と少年に頼まれ、仕方なく彼を部屋にあげることになった。
 少年はソファに腰掛けると、妖精を見た場所や状況を探偵に話しはじめた。
 妖精に対しての熱意に、探偵は感心しながら話しを聞き、話しが終わると「素敵な体験だったね」と少年に言った。

「妖精を見るなんて、大人は出来ないから」

「そうだと思います」と少年は言った。「大人になったら、妖精は見えないと思いますから」

「だからその前に、君は妖精を探して欲しいと、俺のところに来たわけだ」

「はい」と少年は言った。それから彼は、妖精を探す仕事を依頼した場合、費用はどのくらいかかるか探偵にきいた。

「そうだな」と探偵は言って試算した。「十万円くらい、かかると思うよ」

「十万円ですか…」

 少年はがっくりと肩を落とした。毎年貰っているお年玉が、使わずに貯金箱に入っているが、それでも十万円も貯まっているとは思えない。「まけてもらえないでしょうか」と、少年は探偵に頼んだでみたが、彼の返事はノーだった。

「俺も生活がかかってるから、そればっかりは、無理だよ。ゴメンな」

 少年は探偵に妖精を探してもらうことを諦めた。彼は事務所を出るとき、妖精を見た場所に、再び行ってみることを探偵に勧められた。

「もしかしたら、そこに妖精が現れるかもしれないよ」

 探偵にそう言われ、少年は決意を新たにした。彼は記憶を頼りに、かつて妖精を見た場所に行ってみることにした。

 後日、少年は探偵のアドアバイスに従い、妖精を見た覚えがある森へ向かった。
 そしてその日から、その森に彼は繰り返し何度も通いはじめた。学校の授業が終わると、バスを使って森に行き、そこで妖精を探し続けた。
 しかしその森に、彼は三ヶ月ほど通っても妖精を見つけることは出来なかった。
 少年は落胆し、再び探偵事務所を訪ねた。彼は探偵に、またアドバイスが欲しいと思っていた。探偵は少年に事情を聞くと、妖精を見つけることが出来なくても、その思いを大切にすることが大事だと彼に言った。

「その思い出を、君が忘れない限り、君の心の中で妖精は生き続けるよ」

 少年はハッとした。彼は探偵の言葉に心を打たれた。妖精を見つけ出すことに、執着するのではなく、その思いを心に留めることが大事だと彼は気付かされた。

 数年後、少年は再び森を訪れた。彼はそこで、妖精を見たときの感動や喜びを思い出し、その思いを今後も大事にしようと思った。

 少年は妖精を見つけることが出来なかった。しかしその経験は、その後の彼の人生に大きな影響を与え、彼と出会い、彼と別れる人の姿も、妖精と同じように彼の心に留まるようになった。
 彼の心の中には、森でかつて見た妖精が、神秘的な光りを放ち続けている。少年が歳をとっても、その光りは弱まることなく、彼の心の中で輝き続けていた。
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