第1話

文字数 983文字

それがやって来る時はとても限定されていた。蒸し暑い日の正午、雨がギリギリ降らないくらいの曇りの時に、縁側に座ると眠気のようなものがやってくる。目を閉じると、夢にしてはあまりにもリアルで、現実と思わせるほどに鮮明な思い出を見る。
今日はその夢の条件が揃っている。子供たちは遊びに出かけ、夫は会社に行っている。家事も一通り終わって、脳に余分な要素が無いのがわかる。
縁側に座ると、眠気がだんだんと増していく。そして私を呼ぶ声が聞こえる。



「…子!理恵子!起きて!遅刻しちゃうよ!」
お母さんはいつも私を無理矢理起こしてくる。別に遅刻ですごく怒られるような学校じゃないのに。
仕方なく体を起こし、寝ぼけた状態で一階のリビングに降りていく。リビングではお父さんが新聞を読みながらパンをかじっていて、お母さんは忙しそうにあちこちを歩き回っている。
私が「おはよう」と言うとお父さんは笑顔で「おーやっと起きたか。おはよう」と言ってくれる。私が挨拶を好きになったのはきっとこれのおかげだ。
朝食を済ませ、顔を洗って歯磨きをして二階に戻る。そして制服に着替えて髪を梳かし、玄関で「行ってきまーす!」と大きな声で言う。するとお母さんとお父さんが「行ってらっしゃーい」と言う。それを聞いたら家を出て学校に行く。
家を出ると親友の千代が待っている。私たちはよく遅刻をするので、それで自然と友達になったのだ。別に不良とかそういうのではない。二人ともただ朝に弱いだけなのだ。
私たちはいつも手を繋いで登校する。しかしあまり喋りはしない。学校に行けば喋るが、登校中はほとんど喋らない。一見気まずそうに聞こえるが、私はこの登校の時間が大好きだ。そして千代もこの時間が大好きだと言っていた。
家の近くにある川に沿って進めば学校に着く。その川は、川とは呼べないほどに水位が低く、底を覗くと、石がむき出しになっていてザリガニがたくさんいる。雨が降ると当然水位が上がって川らしくなるので雨が降るといつも川を見に行った。登校中は時々足を止めて二人で川を見る。ザリガニが動いていたり、少しずつ水が流れるのを見ると生きているのを実感できる。千代は食いしん坊なので、ザリガニを見ると時々、「美味しそう、、、」という言葉が口から漏れる。そういう楽しいことがあるので、私はこの川が好きだ。
そして川に沿った道を10分ほど歩くと学校に着く。

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