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文字数 1,709文字

 私はモテたい。とにかくモテたい。
 いろんな男にチヤホヤされて、気に入らなければ切り捨てたい。

 こないだ田舎の高校を出て、晴れて東京の大学生。この機会を存分に生かして、無数の男を捕まえたい。
 私の見た目は地味なほう。しゃべるのだって得意じゃない。学生ウケは望み薄。パパ活なんて夢のまた夢。
 そんななか思いついたのは、コスプレイヤーを目指すこと。二次元キャラになりきれば、男にウケると考えた。

 ……もちろん、最初はナメていた。人気のキャラの服さえ着れば、上手くいくかなと慢心してた。実際のところ、初めのほうは、鳴かず飛ばずの大失敗。数えきれないライバルたちの足許にも及ばなかった。
 けれどもそこから再起して、自分を高めることにした。肉体づくりに肌づくり。服も、ウィッグも、小道具も。カメラの知識にポーズの知識、必要なものは取り入れて、SNSにも気を使う。
 そうして積み重ねていくと、徐々にフォロワーが増えてきた。

 そう、「徐々に」だ。「一気に」じゃない。
 一か月経って、二か月経っても、まるでライバルに追いつけない。
 順当といえば順当だろう。新人なんてこんなものだ。
 だけど私は耐えられなかった。一気にハネてみたかった。
 ドカンとウケて、男どもから媚びへつらわれてみたかった。


 服を脱いでみることにした。


 私は胸が大きかった。格別といっていいくらい。
 田舎にいるとそれが嫌で、嫌で嫌で仕方なかった。からかわれたり、妬まれたりして、ろくな心地がしなかった。コンプレックスの原因で、無くなればいいと思ってた。
 ただ東京では、ちょっと違った。田舎みたいに、指をさされて冷やかされたりはしなかった。怪しい視線は感じるとはいえ、我慢のできる範囲だった。
 利用してみてもいい気になった。
 ……もう「徐々に」は嫌だった。

 モチーフのチョイスを変える。布面積をひたすらに減らす。
 下着ギリギリ、乳輪スレスレ、そういう過激な衣装を選ぶ。
 こぼれそうで、はしたなくて、男をいざなうキャラになる。
 いっそあふれてもいいくらい、目いっぱいまで肌を見せる。
 

 効果は、一気に現れた。
 男がどんどん寄って来た。
 ライバルたちを差し置いて、私には群がりができた。
 カメラを持って、スマホを持って、男がみるみる私を囲う。
 目線、笑顔、握手やそれ以上、私にたくさん求めてくれる。
 イベント中でもネットでも、どこにいたって持てはやされる。

 そう、私は夢を叶えた!
 男たちからチヤホヤされて、何をやってもかまってもらえる、そういう女になれたんだ!
 嫌というほど誘われて、気に入らなければ切り捨てる。
 かつての夢とは、いまの私。なりたい自分に、もうなった。


 ……それから、数か月が経った。私は変わらずモテている。
 いっぽう、周りは変わっていった。
 とある同期は彼氏にぞっこん。婚約するとか、しないとか。
 とある同期は資格をとった。就活でリードするという。
 その点私は、モテている。モテているけど、それしかないの?
 ずっと幸せだったけど、急になんだか、違和感が湧く。

 ……あの日私が求めた野望は、果たしてこの程度だったのか。
 ひとりの夜を過ごしていると、妙に虚しくなったりもする。
 モテたいというあの欲求は、これで叶ったと言えるのか。
 乳目当てで言い寄られても、なんだか最近嬉しくない。
 不特定多数の興味とか、惹いたところでなんなのさ。
 性欲まみれで情けない、しょっぱいだけの男ども。
 SNSのメッセには、甘い口説きが常に溢れる。
 考えなしで世をナメて、甘えのあった昔の私。
 承認欲求全開で、恥だらけのしょっぱい私。

「これでよかったのかなあ、私」
 
 だけど、今さら引き返せない。もう日陰にはいられない。
 囲いをさらに増やすため、またもイベントに参加する。
 今日のモチーフはソシャゲの子。黒いマントとステッキと、ホウキ、コウモリ、黒猫ちゃん。なにより目印になるのが、大きな大きな三角帽。ただしマントの下で着るのは、マイクロビキニみたいな何か。
 そんな恰好でうろついていれば、男はすぐに寄ってくるんだ。
 私の胸に釘づけになって。
 「あ、魔女っぱい」なんて言いながら。
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