目覚め
文字数 1,028文字
待った、旦那。
どうした？
それ以上はだめだ。押さないでくだせえ。
自分で鳴ってて何言ってんの。押さないと起きられないじゃん。
あっしもいま気づいたんだが、起きちゃだめだ。押したら旦那は目を覚ます。押しちゃだめだ。
じゃあ、これは夢か。道理で目覚まし時計と話せてるわけだ。
そう、これは夢です。覚めちゃいけねえ夢もあるってこってす。
変な夢だな。時計が鳴って起きるならわかるよ。止めてから起きるってなんだよ。
パターンでやす。夢から覚める時には旦那はそういう夢を見るんです。旦那自身で選んでるんでやす。
あのね、俺、さっきからトイレ行きたい。起きていい？
ダメでやす。
お腹も空いてきたよ。
それでもダメでやす。
朝の天気予報見逃すかも。
天気予報はもう…、いえ。
なに？言いかけてやめるのすごい気になる。
いえ、何でもありやせん。
番組変わっちゃったんだっけ？何だかうまく思い出せないよ。
だいぶんよくお休みでやしたからね。
ふしぎだなあ。寝る前に何やってたのか思い出せない。
そうでしょうね。
あ、でも昨日食べたハンバーグあれよかったな。
…お友達と駅前で食べたあれでやんすか？
ソースに玉ねぎが効いててさ。また行きたいな。今日あたりどうかな。
いいかもしれやせんね。
またあいつらも誘ってさ。さすがに嫌がるか。
そうでやすね、続けてだと。
マックくらいにしとくかな。
それもいいかもでやすね。お友達がいるといいかもしれやせん。
なんだよお前、さっきから。やけに引っかかるじゃん。
いえ。
お前のような目覚まし時計を持った覚えは無いぞ。
そりゃあ、もともとはパパさんの使われてたもんでやしたから。
そういうことじゃねえよ。お前は俺を起こすのが役目なの。俺に口答えするんじゃない。
へい、出過ぎたマネをしてすいやせん。
よし、わかったところで起きさせてもらうよ。ここを押せばいいの？
その通りで。…いや、やはり、お考え直しを。
何だか起きなきゃいけない気がするんだ。ああ、体がバキバキだよ。起きて背伸びでもしたい。
旦那。
ん？
パパさんもママさんも旦那のことを愛しておいででした。ご幸運を。それと、どうか気を落とされずに。
あはは、なんだよお前。夢から覚めるだけなのに大げさすぎ。
…あっしはもう止めません。どうぞ一思いに押してくだせえ。
何だかよくわかんないけど、ポチッと。今日の朝ごはんは何だろうな。
で、起きてみたらカプセルの中だったわけだけど。
一面の砂漠だ、誰もいない。
時計を見ると、西暦4999年8月13日。
なるほどね。
