夜の絵画

文字数 355文字

  
 窓を開けると、冷たい空気が暖かな部屋へしんと染みてきた。顔を出して見下ろす。夜に沈んだ通りに、門灯の暖かな光がぽつぽつと灯っている。光は辺りをほんのり照らして、壁の煉瓦や緩く下りて行く白い石畳を、ところどころ浮かび上がらせる。夜の通りを暫く眺めて、ふと空を見上げる。濃藍の空に、輪郭をぼやかした眩しく輝くふくよかな三日月が浮かんでいた。夜の空に一つ煌々と輝く月は、まるで夜の女王のよう。突然浮かんだ詩人めいた感想に、思わず笑みが零れる。ぼうっと街を眺めながら、手の中のカップを、まるでその熱を確かめるかのように時折さする。段々と冷気が身体に染み込んでくる。カップに口を付けて、ほうと息をつく。身体の中に、じんわりと熱が広がっていく。もう一度口を付けて、それから名残惜しさを感じながら、夜の絵画に蓋をした。
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