第1話
文字数 2,706文字
はい、それでは皆さん、ホールに整列して下さい、一列十人で四列です。迅速にお願いします。
こら!そこ!ちゃんと並ばんと頭に鉛玉ぶち込むぞ!
失礼しました、捜査四課時代の癖が出てしまいました。
はい、並びましたね。それでは、犯罪者更生施設「いきいき館」を見学していきたいと思います。
まず始めに、少しお話がありますのでお渡ししたパンフを見ながら聞いて下さい。
ご存知の通り、この四月の法改正により、犯罪者への刑罰が厳しくなりました。「犯罪者厳罰法」です。殺人や薬関係など凶悪、もしくは再犯の恐れのある罪を犯した場合、次に微小でも罪を犯した方は問答無用で死刑となります。また、軽微な犯罪でも前科四犯になれば同様に次は死刑になります。そうです、まさに皆さんです。
はいはい、静かに。分かります、確かにいくら犯罪者と言え、人権を無視したやり方かも知れません。だからこそ、あなたたちへの救済措置としてこの施設が出来たのです。
つまり、皆さんが再度罪を犯さないよう、性格や病気等を最新医学で矯正し、更生のお手伝いをする施設なのです。
なお、ここへの入所は強制ではありません。通常の刑務所希望ならそれでも結構です。しかしその場合、出所する時ICチップを首に埋め込みます。そして、二十四時間監視となり、軽微な犯罪でもすれば即死刑となります。
出所後、ビクビクしながら生きるより、更生施設で心を入れ替え、真っ当な人生を歩む、こちらの方がどれだけ幸せな人生でしょうか。
当然入所しますよね。
はい、では早速施設を見て行きましょう。
こちらの左右の部屋、これが皆さんが暮らす部屋です。綺麗な個室になっているでしょう。しかも非常に清潔です。正しい心になるには正しくきれいな環境が必要との、私どもの理念からなのです。
しかもこちらは独房のように部屋から出られない訳ではなく、館内は他者のプライベートルーム以外は出歩きが可能です。閉じこもっていても精神が健全になる訳ではありませんからね。
さて、次行きましょう。
ここは工場みたいだと思いませんか?これは皆さんの館内着を洗うランドリー機です。皆さんは毎日館内着を着替えてもらいます。使用した服は各部屋のシューターに入れてください。シューターからここのランドリーに直結しており、この自動洗濯機で洗います。
このように、当施設は衛生面を特に重視しています。各部屋にシャワー完備ですし、施設地下には大浴場もあります。皆さん最低でも一日一回、シャワーもしくはお風呂を使って下さい。
では次です。
ちょっと窓の外を見てください。白い建物がありますね、あれは高度医療研究センターです。この「いきいき館」と同じ敷地建てられています。日本医療の最先端の技術とシステム・機器類を研究・導入しています。
ここの医療技術が皆さんの矯正と更生のお役に立つんです。もちろん、皆さんが病気や怪我をした場合でもこのセンターが迅速に対応します。中は常に消毒された状態になっていますので、通常は立ち入り禁止となります。
では、館内に目を戻してください。こちらは「治験」室です。
皆さん、「治験」って知っていますか?治験とは、簡単に言えば新しい薬や治療方法を人間の体で試す、ということです。中には、骨折をさせて治る状況を観察したりとか…、まあこれは都市伝説でしょうが、世の中には治験のバイトというのもあるぐらいです。
少し乱暴?
これは、刑務所における「刑務作業」と同じ扱いです。この治験のお金が出所後皆さんに渡されます。そしてここには「高度医療センター」があります、心配ありません。皆さんの治験行為が世の医療を進歩させ、助かる方が増えるのです。こんな素晴らしい行為はありません。
まあ安心してください、治験バイトで死んだ例はありません。たぶん。
はい、じゃあ次です。こちらは大食堂です。みなさん、テーブル前の椅子に腰を掛けて下さい。
ここでは各個人の栄養状態や身体状態に合わせ、最適と思われる食事が個別に提供されます。残念ながらお酒はありません。ま、刑務所でも酒は出ませんがね。
食事は毎回決められた時間に決められたものを食べることになります。また、食事の後は用意されたサプリを飲んでください。
はい、ここまでよろしいですか?
何か質問がある方。
はい、刑期ですか?
皆さん、裁判所でそれぞれ刑期を言い渡されていると思いますが、ここでは関係ありません。こちらの判断で、つまり矯正の状況で出所となります。なお、最長でも十年ということはないと思いますよ。もっと短いと思います。ほとんどの方が判決の刑期より短くなります。
はい、労働ですか?
先ほども言いましたが、治験が労働扱いになりますので、作業等はありません。
面会ですか?
すいませんが面会は出来ません。ここは医療施設も併設していますので非常に清潔が保たれていますし、機密事項も多いので一般の方の出入り禁止となっています。
他には?ここは「清潔」に厳しすぎる?
はい、そうですね。理由?
ハハ、やっぱり言っておきましょうか。
皆さんをなるべく健康に保っておくためです。はい。
健康な肉体じゃないと、健康な臓器になりませんからねえ。
あ、逃げようとしても無理です。今椅子からシートベルトが出たでしょう。ロックしてあるので取れませんよ。
私はねえ、出所できるとは言いましたが「生きて」出所できるなんて言ってないですよ。
皆さんはいろんな臓器として「出所」するんです。
はいはい、静かに、静かにしろ!
この施設は、皆さんを健康な体に「矯正」し、臓器の提供という崇高な使命で更生させるんですよ。
性格と病気を矯正させると言ったって?
だから、薬で体を健康にして、そして更に精神支配し逆らわないようにして、ってことです。
大体あなた方のようなのは日ごろから不摂生ですからね、ちゃんと健康にしますよ、臓器のために。
ああ、麻薬常習者の場合、臓器が使えない場合があるので、その方は人体実験ということで。治験なんてレベルではなくてね。
さて、それでは皆さん、またあとで。
よし、部屋のドア閉めろ、催眠ガス噴射!
さて、健康診断手早くしろ。今の状態で健康体は早速臓器抜くからな。
そうでない奴はガス切れた後、暴れないように抗精神病薬注っとけ。いうこと聞くようになるだろ。
それでもダメな奴はロボトミー手術だ。
まあ何にしろ、これでまた新鮮な臓器が手に入る。病気で苦しんでる人が助かるんだ。
こんな犯罪者の連中なんて人間じゃない、臓器を運んでくる物だと思え。
いいか、これが奴ら犯罪者の「更生」だ。
こら!そこ!ちゃんと並ばんと頭に鉛玉ぶち込むぞ!
失礼しました、捜査四課時代の癖が出てしまいました。
はい、並びましたね。それでは、犯罪者更生施設「いきいき館」を見学していきたいと思います。
まず始めに、少しお話がありますのでお渡ししたパンフを見ながら聞いて下さい。
ご存知の通り、この四月の法改正により、犯罪者への刑罰が厳しくなりました。「犯罪者厳罰法」です。殺人や薬関係など凶悪、もしくは再犯の恐れのある罪を犯した場合、次に微小でも罪を犯した方は問答無用で死刑となります。また、軽微な犯罪でも前科四犯になれば同様に次は死刑になります。そうです、まさに皆さんです。
はいはい、静かに。分かります、確かにいくら犯罪者と言え、人権を無視したやり方かも知れません。だからこそ、あなたたちへの救済措置としてこの施設が出来たのです。
つまり、皆さんが再度罪を犯さないよう、性格や病気等を最新医学で矯正し、更生のお手伝いをする施設なのです。
なお、ここへの入所は強制ではありません。通常の刑務所希望ならそれでも結構です。しかしその場合、出所する時ICチップを首に埋め込みます。そして、二十四時間監視となり、軽微な犯罪でもすれば即死刑となります。
出所後、ビクビクしながら生きるより、更生施設で心を入れ替え、真っ当な人生を歩む、こちらの方がどれだけ幸せな人生でしょうか。
当然入所しますよね。
はい、では早速施設を見て行きましょう。
こちらの左右の部屋、これが皆さんが暮らす部屋です。綺麗な個室になっているでしょう。しかも非常に清潔です。正しい心になるには正しくきれいな環境が必要との、私どもの理念からなのです。
しかもこちらは独房のように部屋から出られない訳ではなく、館内は他者のプライベートルーム以外は出歩きが可能です。閉じこもっていても精神が健全になる訳ではありませんからね。
さて、次行きましょう。
ここは工場みたいだと思いませんか?これは皆さんの館内着を洗うランドリー機です。皆さんは毎日館内着を着替えてもらいます。使用した服は各部屋のシューターに入れてください。シューターからここのランドリーに直結しており、この自動洗濯機で洗います。
このように、当施設は衛生面を特に重視しています。各部屋にシャワー完備ですし、施設地下には大浴場もあります。皆さん最低でも一日一回、シャワーもしくはお風呂を使って下さい。
では次です。
ちょっと窓の外を見てください。白い建物がありますね、あれは高度医療研究センターです。この「いきいき館」と同じ敷地建てられています。日本医療の最先端の技術とシステム・機器類を研究・導入しています。
ここの医療技術が皆さんの矯正と更生のお役に立つんです。もちろん、皆さんが病気や怪我をした場合でもこのセンターが迅速に対応します。中は常に消毒された状態になっていますので、通常は立ち入り禁止となります。
では、館内に目を戻してください。こちらは「治験」室です。
皆さん、「治験」って知っていますか?治験とは、簡単に言えば新しい薬や治療方法を人間の体で試す、ということです。中には、骨折をさせて治る状況を観察したりとか…、まあこれは都市伝説でしょうが、世の中には治験のバイトというのもあるぐらいです。
少し乱暴?
これは、刑務所における「刑務作業」と同じ扱いです。この治験のお金が出所後皆さんに渡されます。そしてここには「高度医療センター」があります、心配ありません。皆さんの治験行為が世の医療を進歩させ、助かる方が増えるのです。こんな素晴らしい行為はありません。
まあ安心してください、治験バイトで死んだ例はありません。たぶん。
はい、じゃあ次です。こちらは大食堂です。みなさん、テーブル前の椅子に腰を掛けて下さい。
ここでは各個人の栄養状態や身体状態に合わせ、最適と思われる食事が個別に提供されます。残念ながらお酒はありません。ま、刑務所でも酒は出ませんがね。
食事は毎回決められた時間に決められたものを食べることになります。また、食事の後は用意されたサプリを飲んでください。
はい、ここまでよろしいですか?
何か質問がある方。
はい、刑期ですか?
皆さん、裁判所でそれぞれ刑期を言い渡されていると思いますが、ここでは関係ありません。こちらの判断で、つまり矯正の状況で出所となります。なお、最長でも十年ということはないと思いますよ。もっと短いと思います。ほとんどの方が判決の刑期より短くなります。
はい、労働ですか?
先ほども言いましたが、治験が労働扱いになりますので、作業等はありません。
面会ですか?
すいませんが面会は出来ません。ここは医療施設も併設していますので非常に清潔が保たれていますし、機密事項も多いので一般の方の出入り禁止となっています。
他には?ここは「清潔」に厳しすぎる?
はい、そうですね。理由?
ハハ、やっぱり言っておきましょうか。
皆さんをなるべく健康に保っておくためです。はい。
健康な肉体じゃないと、健康な臓器になりませんからねえ。
あ、逃げようとしても無理です。今椅子からシートベルトが出たでしょう。ロックしてあるので取れませんよ。
私はねえ、出所できるとは言いましたが「生きて」出所できるなんて言ってないですよ。
皆さんはいろんな臓器として「出所」するんです。
はいはい、静かに、静かにしろ!
この施設は、皆さんを健康な体に「矯正」し、臓器の提供という崇高な使命で更生させるんですよ。
性格と病気を矯正させると言ったって?
だから、薬で体を健康にして、そして更に精神支配し逆らわないようにして、ってことです。
大体あなた方のようなのは日ごろから不摂生ですからね、ちゃんと健康にしますよ、臓器のために。
ああ、麻薬常習者の場合、臓器が使えない場合があるので、その方は人体実験ということで。治験なんてレベルではなくてね。
さて、それでは皆さん、またあとで。
よし、部屋のドア閉めろ、催眠ガス噴射!
さて、健康診断手早くしろ。今の状態で健康体は早速臓器抜くからな。
そうでない奴はガス切れた後、暴れないように抗精神病薬注っとけ。いうこと聞くようになるだろ。
それでもダメな奴はロボトミー手術だ。
まあ何にしろ、これでまた新鮮な臓器が手に入る。病気で苦しんでる人が助かるんだ。
こんな犯罪者の連中なんて人間じゃない、臓器を運んでくる物だと思え。
いいか、これが奴ら犯罪者の「更生」だ。