第1話

文字数 577文字

昔むかし、ある寂れた村で重税に苦しむ平民がいました。
月に課せられた税を払えない場合は女子供を差し出さなくてはいけません。
平民は、つい先程、やせ細って弱っていた自分の妻を差し出してきたところでした。
こちらもギスギスにやせ細っている平民は、ついに自殺を決意します。
村から近い崖の上で、いざ、と、いうときでした。
ちょうどその辺りを散歩中の、馬に乗ったふとっちょの貴族が平民を見つけます。
これは大変、と、貴族が平民を助けに崖に駆け寄ります。
しかし、なにぶん脆い崖でしたので、振動で崩れ、平民も貴族もまっさかさま。落ちてしまいました。
可哀想に、貴族と馬は首の骨を折り、即死。
軽かった平民は、貴族の上に落ち、怪我こそしたものの、無事でした。
呆然とする平民の前に、その一部始終を見ていた兵士が現れ、言いました。
「平民を、貴族殺しの罪で逮捕する」
こうして、平民は逮捕されてしまいました。
激しく拷問を受け、裁判は長引き、やっとでた判決は、「火刑」でした。
丸太にくくりつけられ、燃え盛る炎の中。
数ヶ月ぶりに、妻の姿を見た気がしました。
狂気に咽ぶ観衆の中、ただ1人じいっと涙目でこちらを見る、少し前よりふくよかになった、懐かしい顔。
もう、平民に思い残す事などありませんでした。
そうして、生命の炎尽きるまで、平民は微笑んでいた、といいます。
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