第1話

文字数 1,806文字

コロナ禍になって起こった、数少ない良いことの一つに「一人でいること」が初めて正しいとされるようになったことがあると思う。

もちろん、わけのわからない病気が世界中で流行っていいわけがないしたくさんのお店や施設が休業し、旅行はもちろん出歩くことも控えなければならず不自由もたくさんある。だが「一人で過ごしている」「一人の時間が多い人」に対する世間の評価が変化したことは、おひとりさまにとっては歓迎できることなのではないだろうか。

コロナ禍の前から結婚しないことや一人でいること、女性でも自分で働いた収入だけで生きていくことは徐々にではあるが認められるようになってきた。私の母が若いころは女性は結婚せずに自分で仕事をして生活していく方法はほとんどなかった。特に一般企業では女性は新卒で雇われて3年ぐらいで結婚してやめるのが当たり前だったし、給料も仕事内容も男性とははっきりと差がつけられていたからだ。

今も給料や仕事内容、会社での扱いに男性と女性では差があり噴飯ものだが、それでも女性でも定年までフルタイムや正社員で働くことも珍しくなく、男性と同じ昇給を得ている人はまだまだ少ないのかもしれないが、ぜいたくはできなくても自分で一人暮らしができるようなお給料はもらえるようになった。
ただ、コロナの前まで男女問わず一人でいることを好む人、結婚しないことを始めから選択する人は「変」だという扱いでしかなかったと思う。
例えば仕事ができ、業務をするのに必要なコミュニケーションは取っているのに会社の飲み会に来ない、行きたがらないという理由で昇進できないなど理不尽な不利益をこうむるというのはよく聞く話だ。

だいぶ前のドラマだが「結婚できない男」「ハケンの品格」でも、仕事の能力は人一倍優れているのに、仕事をするための場所であるはずの会社で周囲の人と群れたがらないという理由で煙たがられたり、注意されたり、言動を気味悪がられたりしているシーンがある。
コロナの前は大人であっても、大勢の人の中に馴染んでみんなと同じ行動をとることや必ず結婚したがり人といることを望む人達が正義で、一人でいたがる人は「変で、どうかと思うけどまあ、こちらに迷惑がかかるわけではないからほっといてやるか。直接否定的なことをいうのも失礼だし」という扱いで、決してほめられたこととはされていなかった。

ところが、コロナ禍が始まり状況が一変した。「密閉・密集・密接」のいわゆる「三密」がいけないとされたため、大人数で集まることはいけない。特に食事や飲み会など飲食を伴う集まりは飛沫感染につながるためいけない、という事になった。
仕事ならば外出することや人が集まってしまう状況になることもある程度仕方がないが、イベントや飲み会のような生活にどうしても必要ではない、遊びの目的で集まる人は感染を広げる悪者になったのだ。
「一人で静かに食事をしたい」「にぎやかな人混みは苦手」「一人でいる方が好き」ということが初めて正義になって、コロナで大変な思いをしている方には申し訳ないが私はコロナ前より精神的に生きやすくなったと感じている。

大人数でいることを好む人を悪いとは思わない。コロナのせいで人が密集してすごすことにいろいろな制限や禁止事項があるだけで、集まって何かすること自体が問題ではない。ただそういう人は他人にも人と過ごしたがることを強要し、すべての人が常に恋人をつくり適齢期までに結婚するものだと何かの新興宗教の信者のように思い込み、自分の価値観と違う人をバカにしたり、挙句の果てには攻撃する人も珍しくない。
そういう人は一体何様のつもりなのかと思うし、いい歳をした大人なのに人それぞれの価値観を認められないなんて小学生のようだ。

大人なら、相手がどんな価値観で何をしていようとそれが人に迷惑をかけることだったり、犯罪でもない限りは尊重できるはずで、尊重できているなら相手のことは気にならないはずだ。仮に自分と正反対の価値観を持った人は受け入れることがどうしても難しければそっと距離を置いて住み分けをし、相手の領分に立ち入ったり相手を変えようとしない姿勢が大切だと思う。

コロナ禍は一刻も早く終わってほしいが、コロナが薬を飲めば誰でも治るようになり自粛や制限が完全になくなったとしても一人でいることはおかしなことでも、間違ったことでも何でもないという風潮だけは残っていて欲しいと思う。
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