第1話

文字数 1,109文字

おしぼりは英語でOSHIBORI。
O・SHI・BO・RI.

嘘です。
おしぼりは英語でウェットタオルと言うそうです。

日常で使っていたり、知っている単語。
それを英語で言ったら?
私の場合、大半はわかりません。

多くのかたが人生で一度は英語・英会話を必要に感じた日があると思います。
今から7~8年前。東京の表参道。
私が最も英語力を必要とした日がありました。

22時すぎ、私は仕事を終えて歩いていました。
表参道の国連大学の近く。
岡本太郎「こどもの樹」のオブジェが立つあたりです。

日本でも屈指のお洒落エリアに仕事で通っていた私。
仕事を終えて歩いていると、声をかけられました。

「We are looking for ”道玄坂”」

外国人のカップル。
もしくは夫婦。
大きなバックパックを背負った二人は「From オーストラリア」と言っています。

「We are looking for ”道玄坂”」
「私たちはドーゲンザカに行きたい」らしい。

(道玄坂……この二人はジャパンのラブホにでも行きたいのか?)

英語で説明することのできない私は、二人を案内することにしました。
道玄坂の正確な場所はわかりませんでしたが、確か渋谷の109のあたりだったはず。
そのあたりまで連れていけば何とかなるだろう、と。

「Go to ”One-Zero-Nine building”」
そう言って、二人のオーストラリア人を先導していきます。

私がそれほど英語が話せないことを察したのか。
二人のオーストラリア人は私と全然からもうとしませんでした。
ただ後ろからついてくるだけ。
道玄坂に行きたいだけで、コミュニケーションをとるつもりはなさそうでした。
(外国人は皆、積極的に話しかけてくる――というイメージを私が勝手に持っていたせいです)

「Go to ”One-Zero-Nine building”」
後ろを振り返っては、それを繰り返す私。
二人がただ後ろからついてくるだけで、2対1みたいな構図で不安になった私は時々振り返っては「Go to ”One-Zero-Nine building”」と声をかける。
渋谷に着くまで、10回以上はワンゼロナインビルディングを口にしたと思います。
(さすがに109回は言いませんでした)

10分ちょい歩いて、ようやく二人を道玄坂へ導きました。
「Thank you!」
「Chao!」
二人のオーストラリアンに手を振って別れました。

渋谷109。
マルキュー。
文字で書くのは簡単です。

109は英語で――何と言うのか?
一歩も足を踏み入れたことのない若者の聖地。
それを英語で言えたなら、もっと上手に話せたのだろうか。
オーストラリアンと別れた私は、日本語でそう考えました。
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