第1話

文字数 1,744文字

 わたしたちは羊飼いで、野宿をしながら、夜通し羊の群れの番をしていた。

 東方の夜空で星が現れた。この星は他のものとは違い、ひときわ輝いている様に見えた。この星は何だろう? 何か天変地異が起きる前触れだろうか。わたしたちはこのできごとに不安さえ覚え、ひどく怯えていた。

「わからない、この世が救われる吉兆か、それとも、この世が終わるほどの凶兆なのだろうか」

「この星は現れたのは、きっと神様が、わたしたちに何か伝えようしておられるのではないか? そうに違いない」

 わたしたちがそう考えていると、突然、目の前に光が差し込み、辺りを照らした。

 この不意に起きたできごとに、仲間の全員は、恐れを感じ、地面にひれ伏した。

『恐れることはない。わたしは、民全体に与えられる大きな喜びを告げる。今日、ダビデの町で、あなたがたのために救い主がお生まれになった。この方こそ、主メシアである。あなたがたは、布にくるまって飼い葉桶に寝ている乳飲み子を見つけるだろう。これがあなたがたへのしるしである』

 すると、この天使に天の大軍が加わり、神を賛美して言った。

『いと高きところには栄光、神にあれ、地には平和、御心に適う人にあれ』

 そうして天使たちは、離れて天に去っていった。わたしたちはこのできごとが、果たして現実に起こったものだったのか、判断が付かずにいると、仲間の一人が口を開いた。

「あなたたちは、何をいつまでも疑っているのか。今この場で起きた、できごとは確かに天のものだった」

 ああ、確かにそうだった……と、仲間一同はこれからどうするか、話し合った。

「さあ、ベツレヘムに行こう。主が知らせてくださった、そのできごとを見ようではないか」

 ――。

「あなたはイエス。インマヌエル―神が共におられる―という意味があるの。生まれてきてくれてありがとう。これからは、わたしたちと一緒に暮らすことになるのよ」

 そうしてマリアはイエスに接吻した。ヨセフとマリアは共に旅をしていたが、途中で月が満ち、馬小屋に寝泊まりするしかなかった。マリアは飼い葉桶に、生まれたばかりの幼子を寝かせ、幸せな思いに包まれていた。

「この子、とても不思議な目をしています。きっと、この世に希望をもたらしてくれるわ。わたし、そういう予感がするんです」

「ああ、マリア、きっと素晴らしい子になる。まるで天使の様なこの姿を見れば誰にだってわかるだろう」

 すると、幼子を祝福するかの様に、飼い葉桶の周りに光が充満した。

『見つけた、ここよ』

『これがイエス様……。ああ、今日は何て、めでたい日なのだろう。この幸運を神に感謝致します。しかし、何てかわいい幼子だろうか』

『ふふふ、マリアもあんなに幸せそうな顔をしちゃって』

『ああ、それにしても、本当にめでたい。それと、先ほど羊飼いにこのことを伝えたから、もうすぐここに来るはずだよ』

 すると、二人の耳元に、馬小屋の戸を叩く音が、聞こえてきた。

『……ほら、きた』

「ここに、救い主様はおられますか……?」

 ヨセフは不思議がりながらも、戸を叩く彼らを迎え入れると、彼らはひれ伏して、この子を拝みだした。その後、宝の箱を差し出されたので開けてみると、黄金と乳香、没薬などが入っていた。

「助かります……。わたしたちはとても貧乏で、この馬小屋に泊まるしかなかったのです。でも、一体どうしてここがわかったのでしょう?」

 すると、羊飼いたちは声を揃えて言った。

「天使のお告げがあったのです。ベツレヘムで救世主がお生まれになると。私たちはその星を追って、ここまで来たのです」

「そうだったのですか。旅は、大変でしょうけれど、ここに泊まらせる訳にもいかないし、今日のところはお帰りください。ただ、わたしは今日起きたこのことは、一生忘れないことでしょう。本当にありがとうございます」

 羊飼いたちは、大いに喜び、神を賛美しながら、馬小屋から出て行った。

「あれは、イエス様と言うそうだよ……何もかも天使の言うとおりだった。見に来て良かったなあ」

「ああ、このことを王様にも報告しなくてはならないな」

 わたしたちはそうして今日は野宿することにした。ところが、王のところへ帰るな……と夢でお告げがあったので、別の道を通って自分たちの国へと帰って行った。
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