第1話

文字数 1,999文字

 "課金する度に貴方の女上司が脱ぎます!本日限り初回無料!"
 仕事は出来るし見た目も良いが愛想の無い女上司と二人きり、運悪く空調の故障した社用車で出張した帰り道のサービスエリアで怪しげなSMSを受信した。
 遅めの昼食を摂ろうと寄ったのに女上司はどこかへ行ったきり姿を見せない。
 昼食を同席する事すら嫌なのだろうか、そこまで他人に不快感を与えたことは今まで無い筈なのだがと若干傷付きながら一人で山菜蕎麦を啜りつつ、普段なら確実に無視するが余りにもタイミングの良いSMSの短縮URLをタップするとNepenthesと言うアプリのストア画面に飛んだ。
 花瓶の様な壺の様なアイコンのそのアプリを気まぐれにインストールしてしまったのは炎天下で脳味噌が溶けてしまったからかも知れない。
 アプリを開くとまず注意事項が表示された。
 "このアプリは本日のみ初回無料です"
 "二回目以降は課金をする度に金額に応じて脱ぐ衣類が変わります"
 "金額及び脱ぐ衣類は自動で設定されるため選択は出来ません"
 "課金後三十分が経過しても脱衣が行われなかった場合、一時間以内に問合せページからご連絡下さい。後日返金処理を行います"
 凝った設定だなと思いつつ同意を選択すると、対象の女性の氏名を入力する欄に少しだけ逡巡したが、特徴的な名ではないし大丈夫だろうと"黒部千尋"と上司の本名を入力した。
 いつ使おうかと考えつつ蕎麦を食べ終えるとやっと上司が姿を現した。
 「お待たせ。もう出れる?」
 無感情に最低限の事しか口にしない人だなと思いつつ席を立つ。トレーを返却し、先に歩く上司の後を追いながら"初回無料 脱がせる"のボタンをタップした。
 すると車まで後数メートルまで近づいた所で徐に上司がグレーの七分袖ジャケットを脱ぎ出した。
 この炎天下にジャケットを脱ぐ位普通だが、何故建物を出た直後でも車に乗り込んだ後でも無く、こんな中途半端な所で脱いだのだろう。まさか本物なのだろうか。
 空調が効かないため窓を開けてはいるが入ってくるのは熱気だけ。
 無言の気不味さに耐えかねて例のアプリを起動すると"五千円 脱がせる"の表示。もうどうにでもなれと思いながらタップした。
 先程と同じ位時間が経ったが上司が服を脱ぎ出す気配は無い。
 高い授業料だったなと思いつつ外を眺めていると車は緩やかに減速してパーキングエリアに入った。
 二つ先で降りるのに寄る必要など無い筈なのだが、何故か奥まった駐車場の木陰に停車すると上司が黒いブラウスを脱ぎ出した。
 八つも年上とは思えない白くきめ細やかな肌が、黒いレースに包まれた豊かな膨らみが露になる。
 「何やってるんですか係長!」
 「だって暑いから」
 「せめて隠して下さい!」
 脱ぎ捨てられたブラウスの袖を首の後ろで縛って胸元を隠し、飲み物買ってきますと言って車を飛び出した。
 二人分のポカリを買って車に戻り、片方のキャップを途中まで開けて上司へと渡す。
 ありがとうと言いながら受け取った上司は数回に分けてポカリを身体に流し込んだ。
 「もう大丈夫、行こうか」
 上司は何事も無かったかの様に運転を再開した。格好は全然大丈夫じゃ無いのだが。
 まさかこんなことになるとは思わなかった。まだ続きはあるだろうかとアプリを確認すると"一万円 最終"と表示された。
 倫理的には許されないのは分かっているが、右をチラリと覗けば見える実年齢よりずっと若く見える白い肌、出るべきところは豊かに実りつつ締まるべきとこは引き締まった身体、その全てを目の当たりにしたい欲求に負け一万円課金した
 目的のインターを降りるとすぐ近くにあるホテルのガレージに入って上司が言った。
 「大丈夫だと思ったけどやっぱり駄目みたい。もう定時なのに申し訳ないけど少し休ませて欲しい」
 相変わらずの口調だが、声色や此方を見つめる視線はいつもの冷めたものでは無く確かな熱を帯びていた。
 促されるままに車を降りて部屋へ入ると一枚、また一枚と衣類が脱ぎ捨てられていく。
 小柄ながらもグラマーかつ引き締まった体躯、此方に向ける絡みつくような熱を帯びた視線、露になった双丘。
 堪らず最後に残された上と揃いのレースに手をかけた。

 事を終えると上司は汗をかいていて恥ずかしいと一人赤面しながら浴室へ向かった。
 お互い様なのだからどうせなら湯を張って二人でとか、あの人の口からあんなに甘い好きが溢れるなんてと考えていると、テーブルの上の二つのスマホが光った。
 一つは"問合せ期限終了"
 もう一つは"おめでとうございます"
 どうやら俺はまんまと捕えられたらしい。
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