第1話

文字数 1,864文字

地球で進化を遂げた人類は、地球を捨てることなく同時に居住地を月や火星へ拡げ、地球から月や火星への旅行が一般的なものになった未来の物語。

起「旅の始まり」
 祖母と暮らす少年・チトセ。母は宇宙塵回収業(デブリ屋さん)という仕事の最中に事故で亡くなっていた。父親の話は聞いたことがない。夏休み、旧式宇宙船に乗った黒猫に宇宙旅行に誘われる。知らない人について行くなって、ばあちゃんが。あと、喋る黒猫には騙されるなって…ん?宇宙旅行全盛期の時代になっても、喋る動物なんていない。黒猫は、チトセの母の元同僚で、彼女の殉職とは別の事故で躰を失い、非合法の動物への脳移植によって一命を取り留めた元人間だという(その時、他に手頃な移植先がなかった)
反社会的勢力の方とのお付き合いは駄目ってばあちゃんが。そのばあちゃんからの依頼なんだ。チトセの脳内にばあちゃんの声が響く。逃げろ!ピアスタイプの機器を介した通信会話(電話)だ。チトセが祖母と暮らす自宅が突然爆破される。ばあちゃんはあんたを守るよ、娘があんたを守ったように。

承「月の君」
 黒猫と月へ逃げることに。しかし、黒猫は大人の事情だと言うばかりで核心を説明しようとしない。月面空港に到着した時、通信回線が安定したのか、祖母からメッセージが届く。ばあちゃんは無事。ちゃんと金を払って雇った用心棒だから、黒猫に従い、暫く地球に帰って来るな。適当に月旅行を楽しめ、と。月は地球より重力が軽く、始めこそふわふわするが、段々慣れてコツはいるが普通に歩くことができた。地球上と同レベルの空気を留めておくことのできない月面では、人間は宇宙服を着用するか、ドーム内でしか生身で行動できない。地球出身者と月出身者(ルナリアン)の違いは一目瞭然で、背の高い方がルナだ。ルナの少女と知り合い、月から地球を観察する。

転「火星教」
 月のドームがテロ攻撃を受ける。地球の原始生命は火星由来とする宇宙進化論(白亜紀以前の隕石墜落の痕跡などを根拠に研究された)から生まれた新興宗教で、火星居住者(概ね地球や月の起居者は富裕層、火星居住者は経済的に発展途上という見方がある)によって地球や月で度々テロを行う過激派がある。狙いは、チトセだった。
 チトセは、宇宙塵回収業に従事する母が業務中に回収した生命維持カプセルに入っていた遺伝子情報だった。受精卵ですらなかったが、生命だと判断した彼女は、自身が所属する会社の設備では生命を維持することができなかった為、自らの子宮に移植し産むことに。最大の問題は、それが平凡な何処かの誰かのクローンではなく、火星教指導者のクローンだったこと。
 チトセは黒猫と引き離され、火星教指導者と対面する。何本もの管に繋がれ、何面ものモニターが映し出す波形は心拍数などバイタルを示すが、そのどれも「感情」ではない。クローンだからかな、わかるよ。あんたはもう心が生きていない。
火星教は、既存の宗教が指導者の権力闘争で本来の役割や存在意義を歪めて来た歴史を鑑み、後継闘争が生じないよう、代々指導者のクローンを培養、育成してきたのだ。火星教上層部は、星間戦争や惑星規模(月はこの時代、月面居住者の地位向上運動を経て、準惑星の位置付け)の災害などを想定し、火星の他に地球・月の各地にクローン培養施設や遺伝子情報の保管庫を設けており、その輸送中の事故により流出したのが、チトセの元となる遺伝子情報だった。当初、チトセの存在を火星教上層部が把握した際は無条件で抹殺命令が下されることになったが、それを止めたのが、黒猫だった。彼は、同僚が戯れで脱法行為に手を染めたことを不思議に思い、その正体を調べていた。最も、黒猫の保管していた調査データが新型通信ウィルスに感染したことで、火星教にチトセの存在がバレたのだが。

結「旅の終わり」
 チトセは長い時間をかけて自身のオリジナルと意思疎通を図り、機械に繋がれた火星教指導者に引導を渡してやる。全ての電源をオフにした。では、あなたが我々を導いて下さるのか? 縋る信者に、チトセは言う。人から考えることを奪う宗教なんてクソ喰らえだ。
 チトセの火星脱出には、月で出会った人々や母の元同僚ら沢山の人達が携わる。月の君も駆けつけてくれた。ばあちゃんは自分で爆破した家を再建したそうだ(曰く、陽動作戦らしい)夏休みの冒険はそろそろフィナーレだ。
あ、夏休みの宿題、全然できてなーい!

補足:チトセが夏休みの宿題として提出した日記風創作小説が、本作。というメタ的設定。

プロットは以上。
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