第1話
文字数 1,966文字
太郎は近道のため池の周りを通学していた。4年生の時に枯れ木の上にスッポンが干からびているのを発見した。さざ波で甲羅が濡れた時に首がひっそり出て来たので安心した。ため池には8匹ほどいて、甲羅から首を伸ばし、のんびりと泳いでいる日もあれば、枯れ木の上でさざ波乗りをしている日もあった。
太郎達はスッポンを「亀」と呼んでいた。
「亀」が自分達の話しかけにキューンという声やキューという鳴き声で返事が返ってくると信じて疑わなかった。
成長して大人になった太郎、彼女との初デートは初めての水族館。彼女と手を繋ぎながら、マンボウやエイ、ジンベイザメなどの主役級水槽を見た後、しれっとスッポンのいる場所を目指した。幼少期のワクワク、ドキドキが蘇り、彼女にも見せてあげたかったからだ。しかし、亀たち、スッポン特有の首の赤い四角マークが無い。
「あれ? スッポンは?」
彼女は微笑んだ。
「亀だよ。スッポンって何?」
「いや、違う。スッポンだよ。」
「スッポン?スリッポン?」
スッポンをスリッパ、トカゲやマムシのような言い方をし、スッポンが亀じゃないとまで言う彼女にイラっとした。一方、彼女はしんみりした水槽ではなく、スイスイ泳いでいる派手な魚を早く見たいと思った。彼女が「スッポン気持ち悪い」と言ったら口論はマックスで大ゲンカに。
ある人が太郎に向かって野次を飛ばした。
「スッポンはね、高級料理ではあるけれど亀じゃないんだ。」
高級料理?有志が食べられるのを知り、太郎の悲しみはマックスになる一方彼女はスッポンという得体のしれない想像しがたい生き物が高級食材で、それが彼女の漢方薬とリンクしスッポンを見直した。
「なんでスッポンを亀だと思ったの?」
「当然亀だろ。」
そこへ図鑑を手にした見物客が近づいて来た。
「ググれば分かるんですけど。」
「まぁまぁ、こっちはほれ、もうスッポンのページじゃい。」
おじさんは二人の緊迫した空気感を癒してくれた。太郎も彼女も苦笑いしつつ、慣れない親切に背中がむずがゆくなった。
「いいのですか?」
「どうぞどうぞ。」
彼女は図鑑の写真だけをじっとみた。
「甲羅の形、違うし首もつるんやね。」
「そうそう、スッポンって狂暴だからね。」
思わず彼女の話に乗ってしまった太郎。実は太郎は水族館の優雅な亀を見て直観的にスッポンが亀ではないことを悟っていたが彼女のとの口論で後に引けなくなっていた。
「スーパーマリオの亀だって楕円だか円だか。」
「え、あれもスッポンだと思ってたの?」
「スッポンも亀のうちでしょ。」
彼女は急にアハハハと勝ち誇った高笑いをしたと思ったら、急に冷静になって言った。
「そこまで向きになる必要ある?」
彼女は深いため息をつきながらしょんぼりした。
「もういいわ、冷静に話しをしただけなのに。思い込みの激し過ぎる人は嫌かも。」
彼女の言葉が太郎の心にとぐろを巻いた一瞬、彼は自分自身を責め否定する気持ちになった。しかし、水槽の前で亀に触れようとする子供達を見た時、亀に話しかけていた当時の自分、スッポンを亀と言っていたあの頃の友達も思い出した。
「アイツが亀でもスッポンでもそれはどっちでもよくて、ただ楽しかったんだ。」「ふーん。てか、スッポンじゃなかった、あ、そっかと私ならなる。」半ば呆れ彼女はどこかに行ってしまったがそれはよくあることだった。
スッポン打ち消しは、幼少期を打ち消してしまう気さえした。スッポンと一緒にいた過去という時間の帯までちょん切りたくない、彼はそう思った。スッポン達と出会ったことによって生まれたワクワク感や冒険心、想像力が彼を成長させた。幼少期の記憶と純真さが蘇りそれは彼の人生においてプラスに働いていた。
太郎は自分がすっぽんを「亀」と呼んでいたことを笑い飛ばすとともに、大人の自分にとっては心の中に持ち続けるべき財産だと彼女を見つけると同時に悟った。
「ごめん、大ゲンカになってしまって。」
すでに水族館を一周し終わっていた彼女はくすくす笑いながらも微笑みを浮かべた。
「私も理解できなくて怒ってしまってごめん。あは、ごめん、吹き出した。これも大切な思い出よね。太郎のスッポン物語。」
二人は互いを理解し合い、過去の純真さを胸に新たな未来へと歩みを進めようと話した。大きな水槽を見上げた時、浦島太郎が水槽に投影された気がした。
ある日、太郎はため池を訪れてみたがもうそこにはなく、埋め立て地には新しいビルが建っていた。ため池のさざ波の様に揺れ立つ心の中で感謝の気持ちを伝えた。
彼は「亀」としての思い出と、実際のすっぽんたちとの交流を大切にしながら、これからも成長し続ける決意を固めた。今日の風は生暖かい、明日は雨かな。スッポンはやっぱり亀だ。
ため池や 亀の姿揺れる 春風かな
夏の日に 亀の影ひとつ 憧れて
大人になり 亀の真実を 知るとき
太郎達はスッポンを「亀」と呼んでいた。
「亀」が自分達の話しかけにキューンという声やキューという鳴き声で返事が返ってくると信じて疑わなかった。
成長して大人になった太郎、彼女との初デートは初めての水族館。彼女と手を繋ぎながら、マンボウやエイ、ジンベイザメなどの主役級水槽を見た後、しれっとスッポンのいる場所を目指した。幼少期のワクワク、ドキドキが蘇り、彼女にも見せてあげたかったからだ。しかし、亀たち、スッポン特有の首の赤い四角マークが無い。
「あれ? スッポンは?」
彼女は微笑んだ。
「亀だよ。スッポンって何?」
「いや、違う。スッポンだよ。」
「スッポン?スリッポン?」
スッポンをスリッパ、トカゲやマムシのような言い方をし、スッポンが亀じゃないとまで言う彼女にイラっとした。一方、彼女はしんみりした水槽ではなく、スイスイ泳いでいる派手な魚を早く見たいと思った。彼女が「スッポン気持ち悪い」と言ったら口論はマックスで大ゲンカに。
ある人が太郎に向かって野次を飛ばした。
「スッポンはね、高級料理ではあるけれど亀じゃないんだ。」
高級料理?有志が食べられるのを知り、太郎の悲しみはマックスになる一方彼女はスッポンという得体のしれない想像しがたい生き物が高級食材で、それが彼女の漢方薬とリンクしスッポンを見直した。
「なんでスッポンを亀だと思ったの?」
「当然亀だろ。」
そこへ図鑑を手にした見物客が近づいて来た。
「ググれば分かるんですけど。」
「まぁまぁ、こっちはほれ、もうスッポンのページじゃい。」
おじさんは二人の緊迫した空気感を癒してくれた。太郎も彼女も苦笑いしつつ、慣れない親切に背中がむずがゆくなった。
「いいのですか?」
「どうぞどうぞ。」
彼女は図鑑の写真だけをじっとみた。
「甲羅の形、違うし首もつるんやね。」
「そうそう、スッポンって狂暴だからね。」
思わず彼女の話に乗ってしまった太郎。実は太郎は水族館の優雅な亀を見て直観的にスッポンが亀ではないことを悟っていたが彼女のとの口論で後に引けなくなっていた。
「スーパーマリオの亀だって楕円だか円だか。」
「え、あれもスッポンだと思ってたの?」
「スッポンも亀のうちでしょ。」
彼女は急にアハハハと勝ち誇った高笑いをしたと思ったら、急に冷静になって言った。
「そこまで向きになる必要ある?」
彼女は深いため息をつきながらしょんぼりした。
「もういいわ、冷静に話しをしただけなのに。思い込みの激し過ぎる人は嫌かも。」
彼女の言葉が太郎の心にとぐろを巻いた一瞬、彼は自分自身を責め否定する気持ちになった。しかし、水槽の前で亀に触れようとする子供達を見た時、亀に話しかけていた当時の自分、スッポンを亀と言っていたあの頃の友達も思い出した。
「アイツが亀でもスッポンでもそれはどっちでもよくて、ただ楽しかったんだ。」「ふーん。てか、スッポンじゃなかった、あ、そっかと私ならなる。」半ば呆れ彼女はどこかに行ってしまったがそれはよくあることだった。
スッポン打ち消しは、幼少期を打ち消してしまう気さえした。スッポンと一緒にいた過去という時間の帯までちょん切りたくない、彼はそう思った。スッポン達と出会ったことによって生まれたワクワク感や冒険心、想像力が彼を成長させた。幼少期の記憶と純真さが蘇りそれは彼の人生においてプラスに働いていた。
太郎は自分がすっぽんを「亀」と呼んでいたことを笑い飛ばすとともに、大人の自分にとっては心の中に持ち続けるべき財産だと彼女を見つけると同時に悟った。
「ごめん、大ゲンカになってしまって。」
すでに水族館を一周し終わっていた彼女はくすくす笑いながらも微笑みを浮かべた。
「私も理解できなくて怒ってしまってごめん。あは、ごめん、吹き出した。これも大切な思い出よね。太郎のスッポン物語。」
二人は互いを理解し合い、過去の純真さを胸に新たな未来へと歩みを進めようと話した。大きな水槽を見上げた時、浦島太郎が水槽に投影された気がした。
ある日、太郎はため池を訪れてみたがもうそこにはなく、埋め立て地には新しいビルが建っていた。ため池のさざ波の様に揺れ立つ心の中で感謝の気持ちを伝えた。
彼は「亀」としての思い出と、実際のすっぽんたちとの交流を大切にしながら、これからも成長し続ける決意を固めた。今日の風は生暖かい、明日は雨かな。スッポンはやっぱり亀だ。
ため池や 亀の姿揺れる 春風かな
夏の日に 亀の影ひとつ 憧れて
大人になり 亀の真実を 知るとき