第1話
文字数 1,999文字
果たして自分は、誰に必要とされたか?
彼がこの世界に生まれ落ちた瞬間に初めて聞いたのは、溢れんばかりの歓声だった。
アワンテッド王国、それが彼の産まれた国であり彼を造った国の名だ。
正式名称『羨望重視型人工勇者、セレス・ノーム』それが彼に与えられた名前だった。
この世界は、ひ弱な人間には残酷すぎた。
だから彼が造られた。誰よりも強くあれと望まれた。
この世界に替えの利かない人間の勇者はいらない。
魔力のこもった土と人々の願いで造った量産できて替えの利く、強い勇者がいるのだから。
セレスの仕事は、誰も手出しのできないモンスターをあっさりと片付ける事だ。
モンスターを倒すために造られた彼にとって、それは造作も無い事だった。
そして自分に感謝する村人の前で、心も無いくせに、わざとらしく何がすごいか分からないような表情をつくって見せるのだ。
彼に心は無い、余計な感情を抱かないように心は備わっていなかった。
彼には魔法を教える機能も備わっていた、魔力の練り方や扱い方を教えることもできる。
望まれれば誰にでも教える、出るはずのない欠伸が出てしまいそうな低レベルの魔法を。
セレスはモンスターを狩り、魔法を教える。実に勇者らしい振る舞いを続けた。
ある日の事だ。彼はいつものように村一つをように滅ぼすモンスターを狩り、その帰り道にある大きな木の下で一人の少年に出会った。
少年は、自分に魔法を教えてくれと頼んできた。
それを勇者であるセレスが断るわけも無い、彼は少年に魔法を教え始めた。
だがすぐに分かってしまう、少年に魔法の才は欠片も無いという事を。
初歩の魔力を感じる事すらできない、どれだけ教えても上達しない。
少年もそれを理解しているのだろう、涙目になりながら何度も何度も言われた事を繰り返すがただ時間を無駄にしていくばかりだ。
昼過ぎから始た練習は、夕暮れまで続いた。
その甲斐あってか、少年はどうにか自分の中の魔力を感じ取れるようになった。
次の日も少年はセレスを待っていた、この日は魔力を練る練習をする。
思っていたよりも早く、少年は魔力を練れるようになった。聞けば、家に帰ってからも一人で練習していたのだと言う。
次は練った魔力を魔法に変換して撃ち出す練習をする、ここまでくればそう時間はかからない。
セレスはそう考えていた、だがすぐにその考えを改めることになる。
少年は次の日も、また次の日も、魔法を使うことが出来なかった。
魔力は練れても、それを魔法にできないのだ。属性の得手不得手は確かにあるが、少年はどの属性の魔法も使うことが出来なかった。
セレスとだけではなく、一人になった後も練習を続けるがいつまでたっても魔法は使えない。
長い魔法の詠唱を覚え、地面に難しい魔法陣をセレスにもらった紙を見ながら描いて練習を重ねた。
だが練習を始めてから二週間後、少年は小さな蝋燭程度の火を一瞬だけ出せるようになった。
少年は大喜びで、セレスにそれを見せる。彼もまた少年の努力が実ったと喜んだ。
そして少年に分かりやすい目標として、自分の魔法を見せると言って川辺に連れて行き、いつものように魔法を使って見せた。
詠唱も魔法陣も使わない、少年の火など足元にも及ばないような巨大な火を出して見せた。
いつもの人々のように少年も、自分を羨望の眼差しで見てくれると思っていた。
だがそうはならなかった。
少年は何も言わずにその場から走り去ってしまった、なぜ少年が走り去ったのかセレスには分からなかった。
先ほどの魔法も、悪気など微塵も無くむしろいずれはこんなすごい魔法が使えるんだと希望を持たせたかっただけだった。
彼は自室のベットの上で、今までにない違和感に襲われていた。
今まで見えていなかったものが急に見え出す、自分の事を凄い凄いと褒めそやす群衆の中にひっそりとだが確かにいた人達の事を。
自分の剣の腕を見せようと、稽古を頼んできた冒険者を打ちのめした時、確かに自分には羨望が集まり、周りの人間は私を褒めた、代わりにその冒険者を身の程知らずと罵った。
結果、その冒険者は自信を無くし仕事を辞めてしまった。
あの少年もそうだったのか、自分の魔法を見て魔法を使う事を諦めてしまったのか。
彼はただ、喜びを共に分かち合いたいだけだったのだ。
一体自分は何人の夢を潰したのか、初めて自分が怖くなった。
何と愚かで醜い事か、何一つ努力せずに与えられただけの力で羨望を集めようなどと。
無いはずの心が激しくざわめく。
セレスは理解した。
勇者であるならば、強者であるならばその力に優しさを持たなければいけなかった事を。
夜が明ける、今日もまたいつものようにモンスターを狩り誰かに魔法を教える。
そして、またあの木の下に行き少年に会いたい。
そして謝りたい、伝えたい。
君に必要とされたいと。
彼がこの世界に生まれ落ちた瞬間に初めて聞いたのは、溢れんばかりの歓声だった。
アワンテッド王国、それが彼の産まれた国であり彼を造った国の名だ。
正式名称『羨望重視型人工勇者、セレス・ノーム』それが彼に与えられた名前だった。
この世界は、ひ弱な人間には残酷すぎた。
だから彼が造られた。誰よりも強くあれと望まれた。
この世界に替えの利かない人間の勇者はいらない。
魔力のこもった土と人々の願いで造った量産できて替えの利く、強い勇者がいるのだから。
セレスの仕事は、誰も手出しのできないモンスターをあっさりと片付ける事だ。
モンスターを倒すために造られた彼にとって、それは造作も無い事だった。
そして自分に感謝する村人の前で、心も無いくせに、わざとらしく何がすごいか分からないような表情をつくって見せるのだ。
彼に心は無い、余計な感情を抱かないように心は備わっていなかった。
彼には魔法を教える機能も備わっていた、魔力の練り方や扱い方を教えることもできる。
望まれれば誰にでも教える、出るはずのない欠伸が出てしまいそうな低レベルの魔法を。
セレスはモンスターを狩り、魔法を教える。実に勇者らしい振る舞いを続けた。
ある日の事だ。彼はいつものように村一つをように滅ぼすモンスターを狩り、その帰り道にある大きな木の下で一人の少年に出会った。
少年は、自分に魔法を教えてくれと頼んできた。
それを勇者であるセレスが断るわけも無い、彼は少年に魔法を教え始めた。
だがすぐに分かってしまう、少年に魔法の才は欠片も無いという事を。
初歩の魔力を感じる事すらできない、どれだけ教えても上達しない。
少年もそれを理解しているのだろう、涙目になりながら何度も何度も言われた事を繰り返すがただ時間を無駄にしていくばかりだ。
昼過ぎから始た練習は、夕暮れまで続いた。
その甲斐あってか、少年はどうにか自分の中の魔力を感じ取れるようになった。
次の日も少年はセレスを待っていた、この日は魔力を練る練習をする。
思っていたよりも早く、少年は魔力を練れるようになった。聞けば、家に帰ってからも一人で練習していたのだと言う。
次は練った魔力を魔法に変換して撃ち出す練習をする、ここまでくればそう時間はかからない。
セレスはそう考えていた、だがすぐにその考えを改めることになる。
少年は次の日も、また次の日も、魔法を使うことが出来なかった。
魔力は練れても、それを魔法にできないのだ。属性の得手不得手は確かにあるが、少年はどの属性の魔法も使うことが出来なかった。
セレスとだけではなく、一人になった後も練習を続けるがいつまでたっても魔法は使えない。
長い魔法の詠唱を覚え、地面に難しい魔法陣をセレスにもらった紙を見ながら描いて練習を重ねた。
だが練習を始めてから二週間後、少年は小さな蝋燭程度の火を一瞬だけ出せるようになった。
少年は大喜びで、セレスにそれを見せる。彼もまた少年の努力が実ったと喜んだ。
そして少年に分かりやすい目標として、自分の魔法を見せると言って川辺に連れて行き、いつものように魔法を使って見せた。
詠唱も魔法陣も使わない、少年の火など足元にも及ばないような巨大な火を出して見せた。
いつもの人々のように少年も、自分を羨望の眼差しで見てくれると思っていた。
だがそうはならなかった。
少年は何も言わずにその場から走り去ってしまった、なぜ少年が走り去ったのかセレスには分からなかった。
先ほどの魔法も、悪気など微塵も無くむしろいずれはこんなすごい魔法が使えるんだと希望を持たせたかっただけだった。
彼は自室のベットの上で、今までにない違和感に襲われていた。
今まで見えていなかったものが急に見え出す、自分の事を凄い凄いと褒めそやす群衆の中にひっそりとだが確かにいた人達の事を。
自分の剣の腕を見せようと、稽古を頼んできた冒険者を打ちのめした時、確かに自分には羨望が集まり、周りの人間は私を褒めた、代わりにその冒険者を身の程知らずと罵った。
結果、その冒険者は自信を無くし仕事を辞めてしまった。
あの少年もそうだったのか、自分の魔法を見て魔法を使う事を諦めてしまったのか。
彼はただ、喜びを共に分かち合いたいだけだったのだ。
一体自分は何人の夢を潰したのか、初めて自分が怖くなった。
何と愚かで醜い事か、何一つ努力せずに与えられただけの力で羨望を集めようなどと。
無いはずの心が激しくざわめく。
セレスは理解した。
勇者であるならば、強者であるならばその力に優しさを持たなければいけなかった事を。
夜が明ける、今日もまたいつものようにモンスターを狩り誰かに魔法を教える。
そして、またあの木の下に行き少年に会いたい。
そして謝りたい、伝えたい。
君に必要とされたいと。