1話完結

文字数 760文字

 遠くから来た私はやっと休むことが出来た。家族といたのに、いつの間にか一人だ。しかし、安心できる場所に巡り会えた喜びを感じ安堵して、私は地に足をつけ横たわった。

 暖かなこの場所が気に入った私は、早速体を伸ばし始めることにした。先ずは足先からだ。ずっとずっと深く、横に広く、足先を伸ばしていく。次は背だ。ずっとずっと上に真っ直ぐに高く伸ばしていく。手も広げて伸ばしてみる。
 
 ああ、気持ちがいい。

 そよ風が吹き、太陽の日差しが眩しい、平和で暖かなこんな日は、一緒にいた家族を思い出す。彼等は何処へ行ったのだろう。生まれた時から一緒に過ごした。暖かな晴れの日も、雨の降りしきる日も、強い風の吹く日もだ。
 寂しさは感じるが、大丈夫に思う。私たちは強くて逞しい。何処へいっても頼もしく私の様に生きている筈だ。私も今を大切に過ごしていこう。

 
 私は体を増やし、家族を作り、私たちになる。
 時々、イヌという生き物が鼻を近づけて私たちの匂いを嗅いだり、ヒトという大小の生き物が近づいてきて私たちを綺麗ねと眺めたりする。
 小さなヒトは、私たちから家族を奪い取っていく時もある。それもいいと思う。奪い取った家族をみて、小さなヒトは可愛らしい笑顔になっているからだ。
 また、新しい家族を増やせばいい。私たちの鮮やかな黄色と濃い緑の姿が誇らしい。強く逞しく美しい私たち。

 そして私たちは姿を変え、白くふわふわとした綿毛を頭上にもつ子供たちを沢山作る。子供たちは強い風で一斉に飛び立つ。別れの時が来たのだ。
 
 さようなら、元気でね。逞しく生きるんだ!



 黄色い花で元気を与え、白い綿毛で優しさを感じさせる。生命力溢れるセイヨウタンポポ。それが私たち。



 

 

 
 

 

 

 




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