第1話

文字数 2,476文字

【起】
転校生してきたばかりの中学2年生・フジは校舎の中を散策していると、同じクラスのシンという少女と出会う。
オドオドしているフジとは対照的に天上天下唯我独尊という言葉がピッタリ合うシンからパシリに任命されたフジは現在この学園で行われている「生徒会選挙」について聞く。
生徒会選挙、それは年に一度学園全体を巻き込んで行われる「戦」である。この学園は生徒の自主性を重んじていることから生徒会には大きな権力が与えられている。その中でも生徒会長は別格で、生徒会長になれば学園の全権を握ることになるのである。
ちなみに現在の会長はテルという人物だが、裏で糸を引いている人物がいるらしく、傀儡とのこと。
生徒会長になる手段はただひとつ。並み居るライバルたちをなぎ倒し、最後の一人、すなわち「天下人」になればいい。
制限時間はあと6時間。会長になる権利は生徒全員に与えられているが、この戦にどう参加するかは自由である。天下人を目指すもよし、早々に退場を決め込むもよし、自分の決めた人物を天下人にすべく動いてもよし。
ただしこの学園には代々、学園四天王と呼ばれるその時最有力候補と目される人物たちがおり、一筋縄ではいかない。
ちなみに、理由に関わらず地面に膝をつく、もしくは勝負して負けを認めた時点で天下人の権利は失われ、退場となる。つまり早々に退場したければ自ら膝をつけばいい。
「でも、天下人?なんてどうやってわかるのさ」
「タイムアップの段階で生徒会室にある生徒会長バッジを持ってたもんの勝ち。ほら、さっさと生徒会室行くぞ」
こうして、イマイチよくわからないままフジはこの戦に巻き込まれたのであった。

【承】
生徒会室を目指す2人だったが、学園内は鬼のように広く、迷路のように入り組んでいるため、なかなかたどり着けない。
そこへやってきたのは学園四天王のひとり、風紀委員長のケン。竹刀を持ち歩く男装の麗人であり、風紀がだらしないシンに対して取り締まろうとしていた。
何とかケンの攻撃をかいくぐった2人だったが、次はこれまた学園四天王の2人目、美化委員長のハルが現れる。赤のイメージカラーで統一し、とても中学生とは思えないおっさんくささ全開のビジュアルだが、人望はめちゃめちゃあるようだ。
そのハルの攻撃もかわし、生徒会室目前でまたも学園四天王の3人目、モトに遭遇する。委員長ではないがサッカー部のキャプテンで足元の実力は折り紙付きだ。シンはモトとの対決を選び、騙し討で勝利する。
学園四天王のひとりが敗北したというニュースはまたたく間に学園中を駆け巡り、シンは一気に選挙の台風の目として躍り出た。そしてそれはすなわち、より一層激しい包囲網をしかれることに他ならなかった。
だがつらいことばかりではない。モトのパシリだったヤス、図書委員長のクロ、引きこもりの天才児タケ、シンの妹のイチなど多くの仲間が手を貸してくれた。何より大きい存在なのはヒデ。冷静沈着で頭がきれ、パチンコ射撃の腕は百発百中。どうやらシンとは旧知の仲のようだ。なんでも現生徒会長とシンの合コンをセッティングしたことがあるらしい。また、ヒデの親友のタカも一緒に付いてきた。
途中、イチが姉をとるか恋人をとるか迫られたり、クロが行方不明になったりしたが、概ね順調に進んでいた。生徒会長バッジを手に入れ、ケンもハルも退場し、あと少しで天下統一…そう思った時、一発のパチンコの音が響いた。

【転】
打たれたのはシン。打ったのはヒデ。
そう、学園四天王最後のひとり、生徒会副会長は実はヒデだったのだ。
ヒデは涼しい顔でシンの傍らに落ちたバッジを拾い上げる。
目の前でシンが倒れた姿を見たフジは戦意喪失し、このまま膝をついて退場しようと考えた。だが仲間たちはそんなフジに「お前こそが天下人になれ」と諭す。
「パシリからの成り上がり、そんな天下人がいたって面白いじゃないか」
その言葉に背中を押されたフジはヒデとの最終対決に挑む。

【結】
まさか自分にフジが立ち向かってくると考えもしていなかったヒデはタカに援軍を頼む。しかし騙し討ちでシンを倒したことを快く思っていなかったタカはそれを断る。
2人の勝負はフジに軍配が上がった。
「お前がここに来た時点で、こうなる気がしていた。いや、違うな、お前と初めて会ったあの時から。やはりおれには表舞台は似合わない」
そう言って負けを認めたヒデ。
制限時間まであと30秒のことだった。
我に返ったフジがバッジを探したその時、横から飛び出してきたのがヤス。
「え…ヤス?なんで…」
「いやー、ヒデっちがどうせフジに負けちゃうだろうから私に譲るってー。あ、その代わり副会長やらせろーとか言ってさー」
「俺には裏で操る方が性に合ってる」
「てなわけで堪忍してね」
キーンコーンカーンコーン…
とタイムアップを知らせるチャイムが鳴り響く。
フジは勝負には勝ったが、あの瞬間は確かに天下人だったが、生徒会長にはなれなかった。
何も考えられずに生徒会室を出たフジは、扉の外で待っていたシンと会う。
「あの…ぼく…」
「お疲れさん。敵討ち、サンキュな」
「でも…」
「なんだよ」
「シンさんの夢、叶えられなかった…」
「はー!?あたしの夢はこんなみみっちい学園の天下なんかじゃないに決まってるじゃん。次はそうだなー…留学でもするかなー」
「え」
「一緒に来いよ」
「え」
「行くぞ」
「はい!」
ゴールは終わりじゃない、始まりなんだ。
2人はまだまだ走り続けるはずだ。

【あらすじ】
転校生のフジはひょんなことからクラスメートのシンと出会い、現在行われている何でもありの戦、生徒会選挙に巻き込まれる。
手強い敵に心強い仲間、個性豊かな面々に囲まれながら2人は天下統一まであと一歩というところまでくる。が、そこで信頼していたヒデによる裏切りがあり、シンは選挙から脱落。
心が折れそうになるフジだが、仲間の鼓舞でヒデと対峙。見事ヒデを打ち負かすのだが、すんでのところで同じく仲間だったはずのヤスに会長の座を奪われる。
だがシンの心は次へ向いていた。その姿を見てフジもシンに付いていく決意をしたのだった。
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