ミロワールの独白

文字数 985文字

 おはよう。夕べも午前様だったようだね。肌の具合をみれば、すぐわかるよ。

 仕事のストレスが溜まっているんだね。でも遅くまで飲んで、それで体調を崩したら本末転倒だよ。ますますストレスがたまって、不健康のスパイラル。いくらオンライン飲み会でも、お酒はほどほどにしないと。

 いつも言っているけど、女性の美しさには限界がない。磨けば磨くほど光り輝くんだよ。

 えっ、誰の言葉だって? 80年代のフランス映画に出てきたセリフさ。後半は僕のオリジナルだけどね。だから、不規則な生活だけはやめてくれ。頼むから、美の可能性を殺さないでくれ。

 ああ、わかってる。どうせ、聞く耳をもたないんだろう。僕がいくら言っても、君の耳には届かない。永遠に届かない。そんなことはわかってる。

 僕は、君のお母さんやお祖母さんの時代から、同じことを言い続けている。かれこれ80年以上になるから、筋金入りだといえるだろう。

 あきらめが悪いとか言わないでくれよ。ただ、粘り強いだけなんだ。

 女性に僕は欠かせない。世界に38億人の女性がいるとすれば、僕たちはその数倍は存在していて、女性の美しさを高めるお手伝いをしている。

 とりわけ、僕はフランス生まれのアンティークなアイテム。素材だって造形だって、そこらの日用品とはわけが違う。ネット通販で簡単に手に入る代物じゃないんだ。

 アールヌーヴォーの華やかな造形に、落ち着いた色使いと佇まい。独特な重厚感があって、落ち着いた大人の雰囲気をまとっている。だから、君のお母さんもお祖母さんも生涯、大事に扱ってくれた。

 僕はフランス語で「ミロワール」という。男性名詞になるから、僕が男であることは理にかなっているのさ。

 しかも、女心を知り抜いた男だよ。美しさに関しては、これ以上、頼りになる存在はいないだろう。

 さて、わが御主人様といえば、流石に深酒を反省したらしい。ジョギングとストレッチで汗を流したおかげで、夕べはたっぷり睡眠をとれたとか。

 ほら、自分の肌を確認してごらん。ほどよく潤っていて、最高の色艶じゃないか。メイクのノリもすごくいいし、ファッションだってバッチリ決まっている。今日の君なら、男たちは絶対に放っておかない。

 もうわかっていると思うけど、僕は鏡だ。38億人のシンデレラのために、僕たちはいる。

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