考古学に憧れて

文字数 2,972文字

「ついに、ついに見つけた!これは絶対に、当時新興宗教が世に広まり、偶像崇拝を行っていた証にちがいない!!」

若手の考古学者であるミミは、数々の遺跡を巡る中で、とある新発見をした。

「当時、この国では無宗教が大半を占めているという学説が一般的。だけど、これは絶対に新興宗教が当時広まり、偶像崇拝を通して信仰を行っていた証に違いない!絶対にそうだ!!」

木々が生い茂り、数々の遺跡が眠る地でミミは遺物の発掘作業を行っていた。
その際、ミミはある集落遺跡の中のある住居の中で、多数の小さな像が埋没しているのを発見した。

当時、その年代ではその国民の大半が無宗教であったという学説が一般に支持されている。しかしミミの発見した多数の像は偶像崇拝が行われていた証拠になる可能性のあるものであり、学説を覆し得る偉業に繋がるのではないかと彼女は興奮してしまった。

「こっちにもその偶像がたくさんある!!こっちにも、こっちの住居にもだ!!」

ミミの興奮は止まらない。彼女が訪れた集落遺跡の中を調べると、一定の割合でこの小さな像が住居より発見されることが分かった。
割合としてはそう多くないものの、しかし一定の確率でこの像が埋没していることをミミが突き止めた。

「これは早く学会で発表しなければ!す、凄い発見につながるに違いない!!」

学会---

ミミはその考古学の学会の場に赴き、大勢の前である説を唱えた。

「みなさん聞いて下さい。私は当時その国で新興宗教が世に広まり、偶像崇拝が浸透し始めていた証拠となるものを発見いたしました」

学会の会場がざわめく。

「そん馬鹿な!当時その国民の大半は無宗教であったはず。ましてや偶像崇拝などを行う新興宗教が世に広まっていたなど、今までの学説を覆す大ごとだぞ!!そんな訳はない!!」

考古学にて権威のある学者が、ミミの唱えた説を真っ向から否定する。

しかし

「これをご覧ください。私が現地に赴き、集落の遺跡を巡り発掘作業をしていく中で発見した偶像がこちらです!!」

ミミは遺跡より発掘した小さな像の数々をお披露目した。

「これはなんと!」

権威ある学者が唸る。そんな馬鹿な、本当に当時偶像崇拝を通し信仰する新興宗教がその国に広まっていたのか、本当にそうなのかと学者達は悩み始めた。

「し、しかしこの像だけでは当時新興宗教が広まりつつあったという説を支持するには証拠が足りなすぎる!!」

ある学者がこれだけでは証拠が足りないとミミに反論した。しかしミミは新たな遺物を学会に提出する。

「これを見て下さい。これは現地で発掘した古文書です。この古文書には、私が発見した偶像の1つが描かれていることを突き止めました」
「な、なんと!!」

学会がざわめいた。ミミが発見した小さな像の数々。その1つが、発掘された古文書の中に描かれていることをミミが突き止めたのだ。

「私の発見した小さな像の数々は偶像崇拝の証。さらには発掘した古文書の中に、この像が描かれております。つまり、古文書には人々が信仰していた神々が描かれており、その小さな像である偶像を通して神への信仰を行っていたのです!!」

ミミの唱えた学説は整合性のとれたロジックが存在していた。ミミの見つけた小さな像が、古文書の中に一部描かれていることが発見された。つまりこの古文書には当時信仰されていた神々が描かれており、その偶像を通して神々への信仰が行われていた証拠になるものであった。

「以上が私の考える新たな学説となります。当時国民の大半が無宗教であったという説は間違っており、この時代、段々と偶像を通して神々を信仰する新興宗教が広まり浸透していたのだと私は考えます」

拍手喝采が生まれた。

無宗教が大半を占めているとされたその国には、実は新興宗教が広まり浸透しつつあったという斬新な発想は、学者達を唸らせた。

証拠も十分にある。

たちまちミミの評判は考古学者の間で広まり、ついに彼女は権威ある学者の1人として君臨することとなった。

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1年が経った。

「ふう、今日は疲れたかな。へへ」

ミミは外を出歩く際に身に着ける宇宙服を外し、火星に築かれたコロニーの中へと入って行く。火星に建てられたコロニーの中は酸素で満たされ、宇宙服無しでも暮らすことが可能だ。人々は今日も火星のコロニーの中で、何一つ変わらない日常を送る。

「もう西暦3001年かあ。もうすぐ私も25才だな」

ミミは家の屋上へと昇り、望遠鏡を覗き込む。

「やっぱり地球は魅惑の星だなあ。まだまだ遺跡の発掘作業を行ってみないと謎が多い。次に地球に行けるのは、半年後かなあ……。また日本に訪れて、私の学説を広めるため、新しい遺物の発掘作業をしないとね」

西暦2050年に核戦争で崩壊した地球。
残された少人数の地球人は火星に移住しコロニーを形成。その後繁栄し、人口は60億人を突破した現在、当時の地球に関する情報の大半は失われている。

そのため、現在新進気鋭の考古学者がロケットに乗って地球を訪れ、当時の地球の生活を知るために、核戦争により崩壊した国々の遺跡を巡る調査が行われている。

ミミの専門は当時の日本の宗教事情である。
日本はその頃、国民の大半が無宗教であるといった学説が一般的であった。しかし、彼女本人が地球の日本へと訪れ、その説を覆す遺物を発掘し、実は新興宗教が当時広まり浸透しつつあったのだという説を唱えたのだ。

「ふふ、私も有名になったなあ……」

ミミは自宅に大切に保管されている遺物を優しそうに見つめた。

多数の偶像、発掘された古文書の数々。
しかし今だ謎も多い。

「この発掘された偶像、なんで女子が多いんだろう。女神信仰が浸透していたのか……?」

ミミが発見した小さな偶像の数々は、何故か女子の見た目のものが多いのだ。

「しかも、年齢は10代の小さな女の子が多いし……」

小さな偶像は何故か10代の女子のような見た目のものが多かった。

「どうやら当時、これらの偶像は

と呼ばれていたことを最近突き止めたけど、まだまだ謎が多いかなあ……」

今度ミミは発掘した古文書をペラペラとめくる。

「この古文書のタイトルは当時日本語で「アニメ同人誌」と読むことも最近分かったけど、随分と性的な内容が多いのよね」

当時信仰の対象となる神々が描かれていると推測された古文書にもまだまだ謎が多い。発掘された古文書のタイトルが当時の日本語で「アニメ同人誌」と発音することは突き止められているが、その言葉の意味に関しては学説が3つ程に分かれている。

「このアニメ同人誌と書かれている古文書に、このフィギュアという呼ばれ方をされていた偶像の女の子の一部が描かれていることは既に分かっている。古文書は信仰する神々を描写し、このフィギュアと呼ばれた偶像を通してその神への信仰を行っているのは間違いないと思うのだけれど……」

ミミは今日も苦悩し、その発掘された遺物の研究を黙々と続ける。

新進気鋭の考古学者であるミミ。
新たな学説を唱え、若くして権威ある考古学者の仲間入りを果たしたミミ。

彼女の「日本」という国の探求は今日も続く。








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