第1話

文字数 1,489文字

次に生まれ変わるなら何になりたい?
そんな話を私は前世でもしていた。たぶん前々前世でも。
なぜか私は毎回願ったものに転生している。
もしかしたら結局の所人生願ったもの勝ちなのかもしれない。
いや、人生じゃないか。難しいな。

転生して毎回思うことは、なかなか人生って上手くいかないってこと。
願ったものに転生しても、上手くいかなければその楽しさも、
3日で飽きてしまう。一番退屈だったのは遮断機だった時。
何分か置きに勝手に上げ下げされるなら遊園地のアトラクションのみたいで
楽しいんじゃないのかって、本気でそう思った。

私は遮断機にはなれたけど、気が付いたらド田舎の遮断機で全然上げ下げされない。
やっときた!って思っても一回下がったら3分間は下がったままで、
次が来るのは一時間後ならまだいい方。
退屈すぎて、来世はギャルのつけまつげにでもなりたいと思った。

次は動き続ければいいのかなって思って、マグロになった。
思った以上に魚っていうのは大変で、そこら中が敵だらけ。
漁師にも追いかけられすぎて疲れて観念した。
漁師に捕まった後は、小ぶりだしあんまり上物じゃないからって
隅っこに追いやられて切り売りされた。
4回値下げされた後にくたびれたおじさんが、家族の為に買って帰った。
鮮度にも自信なかったし、生姜多めの煮つけがおすすめだったのに、
食べ方が分からなかったみたいで塩焼きされて食べ残されたのが最後。

前世がマグロで大変なことが分かったから、色々考えて悩んだ後、
次は神社の賽銭箱の上にいる鐘になった。
来てくれる人ほとんどがお願い事してたけど、細かいことで悩んでる人もいれば、
来世はアラブの大金持ちにしてくれって頼み込んでる人もいた。
特にすることもなくて、毎日左右に振られてお参りに来る人の
頭を眺めているだけだった。
来世より現世のお願いごとをした方がすぐに幸せになれる気もするけど。
アラブの金持ちなら、確かに順番待ちの為に前々前々前世位からお願いしておいても
いいかもしれない。

問題の現世は、生まれ変わる前に転生係の人に呼ばれて話し合って決めた。
一番人生を楽しめるのは何かって、聞いてみたけど、
お決まりの「人それぞれ」って言われてダーツで決めた。
別に私じゃなくても他の人も好きに転生させてあげたらいいのに。
そもそも転生って何のために必要なの?って
文句ばかり言っていたら結局ダーツで人間にされた。

現世の私は何も持ち合わせていない、ただの女の子。
悲しい話だけど、大金持ちでもないし超能力も使えない。
前世がマグロでも魚と話せる能力なんて持ってないし、
遮断機とも、もちろん会話なんてできなかった。
神社の鈴の名前は本坪鈴(ほんつぼすず)ってことが分かった位。

長い生まれ変わり人生で気が付いたこと、人間は選択肢がある。
動ける足があるし、嫌だと思ったら人生が終わらなくてもやり直しがきく。
遮断機だった頃に足があれば、都会の遮断機にでもなれて楽しかったのかもしれない。
マグロだった頃に職業が選べたならば、
食卓で美味しくない塩焼きにならずに済んだのかもしれない。
神社の本坪鈴だった頃に自分の名前やいる理由が分かっていれば、
自分自身の存在理由に気づけて仕事が楽しかったのかもしれない。

今の私は本当に何も特別なものは持っていないけど、
何でも持っている。それに気が付いて驚いた。

そんなある日、私は転生係の天使に夢の中で話かけられた。
「人間も楽しかったみたいでよかった。でもごめんね。
今回はここでおしまいなんだ。来世も頑張ってね。
後で転生係が来るから。」

私の人生は楽しいところで終わりが来た。

来世に期待なんかできない。もっと遊べばよかった。



























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