第1話

文字数 562文字

 今日のランチ時間のこと。
 斜め後ろの席の男女カップルが交わし合う、マスク越しの活発な会話が否応にも耳に入ってきてしまう。
 就職のこと、バイトのこと、ゼミのこと。
 大学生であるという容易な推測が脳内で整理できた。
 そして、会話はこんな展開に入っていった。

「あたしのような真面目な人を探してね」

「あたしのような真面目な人じゃないと、結婚式には行かないからね」

 どうやら、そんな進行形の関係上にいる二人らしい。
 彼女の早口な調子の声には、照れを隠すような想いが含まれていながらも、しっかりとした本気の意思が窺い知れる。その後、ボソボソと返答している彼の声は、僕の耳には届いてこない。いや、心に届いてくれなかったのだろう。
 彼女が放った発言を聞いて、僕はすっかりお腹がいっぱいになってしまった。程なくしてテーブルを立ち、振り向き様に斜め後ろにいた彼女と目が合った。
 その目を見て、ふと、とある親しい知人女性の顔が連想の流れに現れてくれた。
「あの人も、きっと若い頃、彼女のような目をしていただろうな」
 ランチ時間に出会した、ほんの数分間の出来事。その数分間は、僕に与えられた今日一日の中に、特別なスパイスを与えてくれた。
 ショートヘアーがよく似合う、凛々しい瞳のお嬢さん。
 あなたの未来が、確かな歓びに出会える歩みでありますように。
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み