第1話

文字数 1,136文字

 タイガー戦車にパンサー戦車、ハノマーク兵員輸送車に88mm高射砲……。棚の上、ズラリ並んだドイツ軍機甲部隊のプラモデル。今から半世紀ほど前、私が小学生の頃。戦争映画といえばドイツ軍と連合軍との戦いを描いたものがほとんどだった。敗けは決まってドイツ軍。でも、その軍装の「格好良さ」に惹かれ「形」を揃えては悦に入っていた。
 中学、高校と進むにつれ、次第に「ナチスの思想」に関心が移っていった。なぜドイツ国民はヒトラーを熱狂的に支持し、自分たちの運命を彼に託したのか?なぜユダヤ人を大量虐殺したのか?ナチス関連本を読んだり、映像を観たりもした。ヒトラーが絶叫し、ゲッベルスが喧伝した「ユダヤ陰謀論」。巧妙なプロパガンダに戦慄を覚えた。同時にナチス・ドイツによるユダヤ人ホロコーストの記録や資料も調べた。アウシュビッツをはじめ絶滅収容所やアインザッツグルッペン等、同じ人間とは到底思えぬ冷酷さで600万ユダヤ人が無残に虐殺された事実。義憤と怒りが渦巻いた。「世紀の大嘘」と「歴史の真実」。その間で「ユダヤ人」をどのように受けとめればよいのか。心の整理もつかぬ間に時代はバブル経済に突入、悪意に満ちた「陰謀論」がベストセラーになっていた。
 「ユダヤ人」というテーマに真剣に取り組んだ、ちょうどその頃。「イエスこそ、わが主、わが神」信じた私は、その視点で『聖書』を改めて読み直した。全世界への離散、ポグロム、ホロコースト、差別と迫害、虐殺をその身に刻まれたユダヤ人の歩みと「ヴィア・ドロローサ」主イエス・キリストの十字架への道。「キリストの受難」と「ユダヤ人の苦難」とが二重写しに見えた。元来「ユダヤ人の王」「ユダヤ人のメシア」であるイエス・キリストは、同時に「異邦人の救い主」でもあること。そして、愛なる神の、すべての人を救わんとするご計画……。
 「イスラエル人の一部がかたくなになったのは異邦人の完成のなる時までであり、こうして、イスラエルはみな救われる」。
 『聖書』の奥義が闇を照らした。実にユダヤ人がおられたからこその「異邦人の救い」であり、「私の救い」ではなかったのか。もしユダヤ人がこの地上におられなかったなら、『聖書』はなかった、「イエス・キリスト」は来られなかった、なんの「救い」もなかった。
 「ユダヤ人は神の選びの民」。揺ぎ無い確信となった。そして、「異邦人の救い」その十字架を担うユダヤ人に感謝と尊敬の念を抱き、ユダヤ人の祝福を祈るようになった。
 あのプラモデルがあった棚。今では、四半世紀にわたり支援を続けるイスラエル人の家族や子どもの写真が並ぶ。ユダヤ人と異邦人のそれぞれの役割を示し、ユダヤ人への愛と将来への希望を与えてくれる『聖書』。心の底から大好きだ。
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