文字数 544文字

曇った空が好きだ。
低く垂れこめた、黒い雲。
空の、同じ高さのところに、一面に広がる。
そこから下にはおりてこない。見えないなにかがあって、その上に乗っかっているように。
蓋をされてしまっているようだ。


遠く離れてしまった。
顔を合わせてバカな話も真面目な話も、尽きることなく話していた。
毎日毎日。

そんな日は急に終わってしまった。
あまりにも急だったから、心が追いついていない。
いま立っているこの場所は現実?
昨日までの日々は?
夢じゃなかったはずなのに。

心がないままで、歩く。歩く。歩く。
流されるように進む。
後ろに下がることはできないから。

誰と喋っても、誰と一緒にいても、私の中身はない。
空っぽだ。

空っぽのままでも、太陽は昇って、沈んで、一日が終わる。
一週間がすぎて、一カ月がすぎて、三カ月、半年……
時間は進む。

中身のない顔にいくつもの表情を貼りつけた。
貼りつけた顔は、いつか本当かどうかもわからなくなった。


もしかして、私の中は、最初から空っぽだったのかもしれない、と気がつく。


曇った空が好きだ。
低く垂れこめた黒い雲が、空の同じ高さのところに一面に広がる。
見えないなにかの空間があって、そこに蓋をしているように。

遠く離れた、広い広い世界。
だけど、あなたと同じ空間に、私はいる。
そんなふうに思えるから好き。
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