第1話
文字数 1,300文字
私の母いわゆる自然派ママだった。それ系の怪しい思想に洗脳され、肉、牛乳、卵、他添加物入りの食品は全て禁止されていた。もちろん医療もろくに受けさせてくれなかったし、風邪を引いても「波動が悪い。鍛え直せ」としか言われなかった。我ながら十七歳までよく生きてきたと思う。
「ああ、市販のパンが食べたい……」
学生食堂の側にある売店には、市販のパンも売っているが、母が「添加物入りの悪魔のエサ」なんて言っていたから、一度も食べた事はない。それでもこのランチパックというのは美味しそうだが、手に取る前に母が作った超自然派弁当が頭に浮かんでしまう。
仕方がない。
私は売店を離れ、学生食堂の隅の椅子に座った。この恥ずかしい弁当を大勢の前で食べる勇気はない。学生食堂は、試験前なのでいつもより人が少なめで、人気のA定食も余っているみたいだった。
「いただきます」
そうは言うが、弁当の汚い玄米とかパサパサな大豆ミートとか不味そう。無農薬野菜の漬物もあるが、母は虫がついているそれを神のように崇めていた事も思い出し、食べたくはないのだが。母は見た目が悪い食べ物の方が健康的と言っていたが、その意味はよくわからない。
「ああ、いいな」
横でランチパックを食べている人についつい話しかけてしまった。
「は?」
横にいた人は、ヤンキーとして有名な品川くんだった。眉毛は半分なく、髪の毛も派手な鳥みたい。手首や指にも派手なアクセサリーがジャラジャラしてる。制服もだらしなく着てるが、手にしてるランチパックが美味しそう。ヨダレが出そう。
「ランチパックいいな。私も食べたい」
「お前誰だっけ? ああ、同じクラスの黒澤か」
「いいなあ。それ食べたい」
「しつこいな。やるよ!」
「いいの? ありがとう!」
こうして初めてランチパックを食べる。雲みたいにフワフワしたパンに優しい味のツナマヨ。
「お、美味しい! なにこれ!」
涙が出るぐらい美味しかった。ランチパックに目覚めた。ランチパックの美味しさに気づいてしまった!
「いや、そんな喜ばなくても良いが」
私があまりにも喜んでいたので、品川くんは真っ赤になって鳥のような頭をかいていた。こんな美味しいものをくれた品川くんは、校内では悪い噂ばっかりだけど、良い人に見えて仕方がない。
以来、品川くんに餌付けされるようになった。ランチパックはもちろん、カレーパン、薄皮つぶあんぱん、北海道チーズ蒸しケーキも……。どれも夢のように美味しく背徳の味だった。
「黒澤、今度一緒にケンタッキーでも行かね? あ、あのビスケットってやつがサイコーに美味しいんだよ」
品川君くんは真っ赤になりながら、私をさらに背徳の道へと誘っていく。
「いいね!」
もちろん、その誘いに乗る。
人は禁止されたものが余計に魅力的に見えるらしい。皮肉にも母に縛られている事が最高なスパイスになっていた。背徳の味。背徳のグルメだ。
そう言えば母は、ヤンキーはクズだとか馬鹿にしていた事を思い出す。まあ、私も無農薬野菜のように虫がついてた方が良いのかもしれない?
添加物まみれのパンの味を楽しみながら、品川くんと何かが始まりそうな予感がしていた。
「ああ、市販のパンが食べたい……」
学生食堂の側にある売店には、市販のパンも売っているが、母が「添加物入りの悪魔のエサ」なんて言っていたから、一度も食べた事はない。それでもこのランチパックというのは美味しそうだが、手に取る前に母が作った超自然派弁当が頭に浮かんでしまう。
仕方がない。
私は売店を離れ、学生食堂の隅の椅子に座った。この恥ずかしい弁当を大勢の前で食べる勇気はない。学生食堂は、試験前なのでいつもより人が少なめで、人気のA定食も余っているみたいだった。
「いただきます」
そうは言うが、弁当の汚い玄米とかパサパサな大豆ミートとか不味そう。無農薬野菜の漬物もあるが、母は虫がついているそれを神のように崇めていた事も思い出し、食べたくはないのだが。母は見た目が悪い食べ物の方が健康的と言っていたが、その意味はよくわからない。
「ああ、いいな」
横でランチパックを食べている人についつい話しかけてしまった。
「は?」
横にいた人は、ヤンキーとして有名な品川くんだった。眉毛は半分なく、髪の毛も派手な鳥みたい。手首や指にも派手なアクセサリーがジャラジャラしてる。制服もだらしなく着てるが、手にしてるランチパックが美味しそう。ヨダレが出そう。
「ランチパックいいな。私も食べたい」
「お前誰だっけ? ああ、同じクラスの黒澤か」
「いいなあ。それ食べたい」
「しつこいな。やるよ!」
「いいの? ありがとう!」
こうして初めてランチパックを食べる。雲みたいにフワフワしたパンに優しい味のツナマヨ。
「お、美味しい! なにこれ!」
涙が出るぐらい美味しかった。ランチパックに目覚めた。ランチパックの美味しさに気づいてしまった!
「いや、そんな喜ばなくても良いが」
私があまりにも喜んでいたので、品川くんは真っ赤になって鳥のような頭をかいていた。こんな美味しいものをくれた品川くんは、校内では悪い噂ばっかりだけど、良い人に見えて仕方がない。
以来、品川くんに餌付けされるようになった。ランチパックはもちろん、カレーパン、薄皮つぶあんぱん、北海道チーズ蒸しケーキも……。どれも夢のように美味しく背徳の味だった。
「黒澤、今度一緒にケンタッキーでも行かね? あ、あのビスケットってやつがサイコーに美味しいんだよ」
品川君くんは真っ赤になりながら、私をさらに背徳の道へと誘っていく。
「いいね!」
もちろん、その誘いに乗る。
人は禁止されたものが余計に魅力的に見えるらしい。皮肉にも母に縛られている事が最高なスパイスになっていた。背徳の味。背徳のグルメだ。
そう言えば母は、ヤンキーはクズだとか馬鹿にしていた事を思い出す。まあ、私も無農薬野菜のように虫がついてた方が良いのかもしれない?
添加物まみれのパンの味を楽しみながら、品川くんと何かが始まりそうな予感がしていた。