第1話

文字数 1,262文字

「お、こんなところに銭湯がある。ちょっと入ってみようか」

 ガラガラ

「いらっしゃいませこんにちわこちらのお湯なんていかがでしょうか!?!?」
「いきなりですね?!……こちら?」
「はい」
「えっとお湯に種類なんてあります?」
「ありますよ。バカにしてるんですか。ぶん殴りますよ」
「客になんてこと言うんだ?!えっとじゃあ種類教えていただけますか」
「はい。まずAの湯は水風呂です」
「それアルファベットいらなくない」
「Bがサウナです。Cは砂でEが岩盤浴です。Fが普通のお風呂です」
「順番が理解不能だし、Dはどこいった」
「値段はAからEがそれぞれ500円、Fが1500円です。あとDは塩です」
「なんの冗談だ?! しかも水だけ入るやつ絶対いないだろ?! 塩……?」
「いませんよ。当たり前でしょ。ひっぱたきますよ」
「なんで俺怒られてんの」
「すべて入れるフリー券は700円です」
「それだけを紹介しろ」
「お楽しみは、最後に、ね?」
「なんでそんな馴れ馴れしいんだよ。気持ちわりいな。まぁ揉めんの嫌だしな。フリー券で」
「はい、フリー券ですね」
「あとタオル貸してよ。風呂場にある?」
「あ、どうぞ」
「なんでお前が首にかけてるやつなんだよ。絶体嫌だよ」
「SDGsです」
「いや、意味不明だろ」
「仕方ないですね。シェフー!タオルお願いします!」
「シェフ?!」
「しまった。バレる」
「なにが?!」



「お待たせいたしました。タオルタオルです」
「なんで二回言うの」
「どうぞ」
「ありがと。じゃあ行くか」
「ちょっとお客さん待ってください」
「え?」
「いや、そっち男湯ですよ」
「あ、うん」
「女湯はあっちです」
「いやいやいや無理あるだろ!?」
「え、これは失礼しました。デリカシーなくて申し訳ございません」
「いや、全然普通に接してくれていいよ?!」
「でも、ぜひ女湯のミルク風呂も入ってくださいね!」
「ぜひじゃねーよ!」


 ○

「いや、ちょっとこの展開はむりあるわ」

 読み終わってすぐに、ネタを考えてきた“こみ”に伝える。

「え? そうかな? よくない? “コント銭湯”と見せかけて……ってネタ。ダークな感じもあって、まつも好きかなと思ったんだけど」

 こみが持ってきたネタはいぶかしがるツッコミが、最後にキレイになったところで、Dの風呂にいれさせられそうになるところでツッコミをいれて終わる。

  長年、売れない芸人を続けていて、もうすぐ30。“こみ”はこの間、親にそろそろスーツ着て仕事して欲しいと言われて、賞レースでスーツを着ていったら、電話越しにぶちギレられたらしい。

  以降は、普通じゃないコントを書きたいらしく、趣味で書いてる小説のエッセンスをいれてるらしい。

  だけど全く面白くなくなってしまった。小説も一度読ませてもらったけれど、なんだかヤマもオチもなくて『お前ほんまに芸人かよ』って言葉が口をつきそうになった。

「ダークな感じは多分誰も求めてないし、多分伝わらないぞ。お客さんは笑いを求めてるんだ」
「注文が多いぞ!」

  小説もコントも人を笑わせるのが一番難しい。

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