まどろみ

文字数 710文字

眠りに落ちる一歩手前の高揚感は何物にも変えがたいものがある。
特に徹夜をした後、朝焼けを浴びながらのまどろみは言葉にできないほどに気持ちのいいものだ。

朝の匂い。冷たくもさわやかな風が窓の隙間から流れだす。
小鳥たちのさえずりが耳元をくすぐる。このにぎやかになる手前の独特の静けさ。夜更けの薄ら寒い静けさとはあきらかに異なるものだ。
からん、からんと始発電車の音がレールをつたって空にひびく。


うとうとと、いつの間にか眠ってしまうであろう自分の気持ちをあざむきながら、眠りとたわむれるが、やがて、何にも考えられなくなる。


これが眠りだ。


さて、目が覚めるのは昼過ぎになるだろうが、起きたばかりの自分はこのことをおぼえているだろうか。眠りの前のまどろみの中で、自分が何を思い、何を得て、何を感じたのか。おぼえているだろうか。




昼。目覚めると白髪の科学者らしき男のしわがれた顔がそこにあった。白衣がライトを反射して、ひどくまぶしかった。
科学者は向かいにいる助手らしき風体の冴えない若い男に聞こえるでもなく小さな声で「このクランケ、毎回この活動しかないみたいだねえ…」と言った。助手の男は「どうやらそのようです。特段、活動らしき活動が採取不能な限り、このクランケの使い道は…」
「…まあ仕方ないねえ。毎回毎回この繰り返しだからねえ。最近はこういうヒトが増えたねえ…」
「同様のケースは9182機目です。確かに増えました。現代人は所詮こんなものなのかもしれませんな…」



科学者が手を払うようなそぶりをして別室に消えると、助手は「その脳」を無造作に取りだし、スチール缶らしき入れ物の中に放り込んだ。

まどろみの中で、おれは生き、そして、死んでいったのだ。
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