No.6 百年目のお花見

文字数 838文字

「いやー今年も綺麗に咲きましたね」

広場には既に大勢の人達がレジャーシートを所狭しと広げていて、そこかしこから愉快な音楽や笑い声が絶え間なく響いていた。

「毎年の事ながら、すこい盛況だな」
「毎年飽きないものっすかね〜」

買い物袋を両手に持った若い男が二人、宴会場の隙間を縫うように慎重に歩きながら自分たちの“会場”を探して進んでいく。

 * * * 

「今日び桜なんていつでも見れるでしょうに」
「こういうのはな、口実が大事なんだよ」

先を歩く男が片手の袋を掲げて見せた。
薄いビニール袋に酒のラベルが透けるのを見て、もう一人の男も「ああ」と声をあげた。

「年に一度だけだから、今だけだから……“昔”はそうやって羽目を外す口実を作ったもんなのさ」
「だから今でも“毎年”?」
「そうだな――ま、お前からしてみれば馬鹿馬鹿しい話かもしれないが」

 * * * 

「綺麗な花なら永遠に散らなければいい、なんて若い奴はよく言うけどな」

そう言って目の前に舞う桜の花びらをフッと吹き飛ばした。

「この桜吹雪だって、散るからこそ美しいものだろうよ」
「そういうものスかね……エフェクトで十分では?」
「やっ〜ぱり分かってねえなお前は!」

近くで花見をしている家族連れの穏やかな笑い声に混じって、買い物袋の中身がガラガラと音を立てる。

 * * * 

「人類が仮想現実に移住してから、もうずいぶん経ちますけど――」

ため息混じりに後を追う若者が、頭に桜の花びらを乗せたまま首を傾げた。

「旧人類の言う事はよく分かりませんね」
「そういう奴にはもう奢ってやんねーぞ」
「ああ、冗談です!いいですよね〜お花見」
「お前の手首にはドリルでも付いてんのか……」

程なくして待ち合わせの相手が手を振る姿が見えてくる、第22サーバー7号広場にて。
今年も満開の桜が見頃となっていた。


✎︎______________
2022/04/08
プリンタニアとサイバネ飯に影響された人になりました 〜完〜
満開と言いつつもう散り始めてるような描写の誤差は忘れて下さい。
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