第1話

文字数 2,220文字

【エッセイ賞】

 昨年の年明け間もなく、世界中が変革を求められることとなりました。
今までの政策発令等の流れを振り返ると、常に全体的というのではなく、一部のみ、もしくは一部を除いての範囲、などというくくりがありました。
ですが、今回ばかりは違いました。人類全てが、コロナウィルスという感染症に、震え上がる事態となった為に、もれなく世界全体に発令されたのです。
 我が家は、自営業を営んでおり、今までごく普通の暮らしを当たり前の様に送って来ましたが、もれなくコロナ禍の渦に巻き込まれました。小売業として、お客様との接客か不可欠であり、人と人との関係が希薄になりつつある近年、地域密着型の販売店として、我が社の“売り“であったと言えばだいぶ聞こえがいいですが、率直に言えば、他ではできない切り札的な“販売戦略“でした。
毎月、集金を兼ねての訪問の際に、たわいもない会話をしたり、近況報告をしたりする事のみなのですご、お客様からはとても感謝されていました。特に一人暮らしの高齢者にとっては、見守り隊の様な存在も兼ねていたのかも知れませんね。
しかしながら、冷静に考えると、この様な当たり前の事をして、喜ばれる今の時代をつくづく世知辛く感じてしまいます。
おそらく、訪問の際に対面し顔を見せる事で、親近感が湧き、身近な存在としての位置づけをしてくれていたのだと思います。
ですが、コロナ禍の今は、そんな当たり前に出来ていて事さえも制限される事になりました。
集金業務も、完全に非接触型(口座引き落としやコンビニ支払い)となり、これまで、善意でわざわざ、当社まで料金を持参してくれていたお客様に対しても、同じことを求めざるを得ませんでした。どんよりとした想いが数ヶ月間、喉元から胸にかけてずっと居座っている様な感じでした。
 一日も早く、業務の変革を伝えなければならない使命感と、伝えた時のお客様の落胆した表情を想像すると、喉まで出て来た言葉がなかなか吐き出さずに、『また、今度会った時でいいや』と思いを飲み込んだことも幾度もありました。さらには、『こんなに望まれているのだったら、月に1度くらい会って話すぐらい大丈夫なんじゃない?』とか、『でも、この人はダメ、この人は良いなんて、平等じゃないよね』などなど…。
来る日も来る日も、何をしてても頭の片隅て葛藤していた様な気がします。
ですが、最終的にはいつも、同じ答えに辿り着きました。『ほとんど外出もせずに在宅されている、比較的安全な環境にいる高齢者の方々に比べて、私は仕事上どうしても、銀行やら役所やらに出向く事が多い。もし万が一、感染されてしまったら、それこそ取り返しがつかない』と。
心を鬼にして、きちんと誠意を持って向かい合い説明をし、了承して頂くしか方法はありませんでした。
幸い、今現在は、全体の99%のお客様にご協力頂く事が出来て、本当に感謝の言葉しかありません。
さらに、現実に私が一番恐れれいた、お客様が離れていくという事もなく、ちゃんと、今の現状を心して理解してくださっているようで、有難いの一言です。
 そこで、“訪問接客なしでも、お客様にとって、より身近な存在であり続けるには…“、“困った時などに真っ先に我が社を思い浮かべてもらう為にはどうすれば良いか“、を考えました。
そうだ!前々から発行している通信紙の内容をもっと練り直し、内容の濃いものにし、お客様に情報を発信していけば、距離が離れる事なくお付き合いを続けられるのではないかと、思いました。
今までより、じっくりと情報収集し、旬な情報を満載し、加えて、業務上の注意事項な伝言など、伝えたい事は山ほどあります。でも、スペース上の問題で、内容を省いていかなければならないのも一苦労ですが、お客様に手に取っていただき、読んでもらえる光景を思い浮かべると、俄然やる気が湧いてくるので不思議なものです。逆に、元気を貰っていたのは私の方だったのかも知れませんね。
今、このような時代にどんな事を発信するのがベストなのか、コロナ感染者対策?防災知識ついて?料理とか健康面のこと?色々と試行錯誤しながら、掲載する優先順位を考えながら発信し続けていくつもりです。
 世の中には、私達よりも、もっと過酷な状況を強いられている方々が大勢いると思います。その一人一人が『もっと、何かやれる事があるはず』『コロナなんかに負けてたまるか』と、歯を食いしばって毎日毎日、試行錯誤しながら、業務にあたっているのが現状です。テレビに映し出されるその姿を見るたびに、つくづく、人間の強さや底力を実感します。
3.11の東日本大震災の際にも、それ以降に訪れた各地方での災害時にも、メディアに取り上げられた人々の、悲しみを乗り越えてなお、立ち上がるその姿が世界中で注目されました。
 “神様は、乗り越えられる試練しか与えない“などという言葉を耳にしますが、今回の“コロナウィルス“は、近年、私たちが乗り越えて来た天災とは全く違ったかたちの試練となった為に、世の中全体が不意をつかれ、政策や対策がことごとく遅れてしまいました。そして、その結果が現在の状況につながったのだと思います。
どうか、人々の底力が続いているうちに、いくらかの収束が見込め、また、人々が、もと通りの、当たり前の日常を送れるようになる事が、今の、私の、そして、世界中の人々の願いだと思います。

                〈完結〉
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み