第1話

文字数 874文字

あー今日も営業部の坂下くん、かっこいい♡

デスクに頬杖をつきながら、熱い視線を送る。

「あんまり、見てると気付かれるわよ?」
隣の同僚が椅子を近付けながら、ボソリと言う。

「だってさ、目の保養になるんだもん!」

「そう言えば、坂下くんてイケメンなのに、浮いた話って無いよね?」

「そうだよね、謎よね。プライベート」

「噂によると、愛犬にメロメロらしいよ。何匹も飼ってるって噂もあるみたいだし」

「へぇーそうなんだ……」


私も犬は好きだ。何の犬種を飼ってるか気になる。これはもう、尾行するしかないな。もしかしたら、女もいるかもしれないし。


私は会社終わりの彼を尾行する事にした。


その辺で買ったキャップとグラサンを掛けながら、後を着いていく。
尾行って何でこんなにワクワクするんだろう。
刑事ドラマの刑事たちも、いつもこんなにワクワク、ドキドキしているのだろうか。


あっ、一軒のアパートに入って行った。


一つの部屋に入ったのを見計らい、そのドアに耳を近づけて中の音を聞く事にした。



「ただいまーコロ。元気にしてた?わーくすぐったいよ!そんなに舐めないでよ」

愛犬が坂下くんを舐め回している。いいな。
小さなチワワとかダックスフンドだろうか。
シーズーやポメラニアンかもしれない。


小さくワン!ワン!と鳴き声も聞こえてくる。
可愛いらしいというより、少し図太い様にも聞こえる鳴き声。
少し、違和感を感じる。


「さぁ、散歩に行こうか!」

ワン!

ワ、ワ、ワ、ワン!

奥の方から数匹の鳴き声も聞こえてきた。
やっぱり、何匹も飼っている様だ。


「ごめんねーみんな!今日はコロの番だからおりこうさんに待ってるんだよ」


ワン!

ワ、ワ、ワッ!

ワカッタ、ワカッタ!


ん?
え?
今……


こっちに近付いてくる気配を感じ、私はアパートの影に隠れた。



「さぁ、コロ!手を繋いで行こっか!」


「おう!」


ドアがガチャン、と開くと
坂下くんと茶色い髪の長身男が勢いよく出てきた。


2人は手を絡める様に繋ぎながら、スキップをして駆け出した。



私はドキドキしながらその背中を見ていた。


こりゃー浮いた話は出てこないわな。


私はそう思いながら、遠吠えをした。


end
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